スマートフォン選びにおいて、カメラやディスプレイほど語られないものの、日常体験を大きく左右するのが「音」です。音楽、動画、通話、会議、録音と、私たちは一日中スマホの音に触れています。そんな中で登場したGoogle Pixel 10は、AIを核に据えた新世代モデルとして、オーディオ体験にも大きな変化をもたらしました。
完全カスタムSoC「Tensor G5」への移行、Bluetooth 6.0の国内外初対応、空間オーディオやAIノイズ処理の進化など、スペック表だけでは見えにくい注目点が数多く存在します。一方で、aptX Lossless非対応やUSB DACの相性問題など、ガジェット好きやオーディオ志向のユーザーほど気になる課題も浮き彫りになっています。
本記事では、Pixel 10シリーズのオーディオ性能をハードウェア、Bluetoothコーデック、有線再生、内蔵スピーカー、AI音声処理まで多角的に整理します。競合機種との比較も交えながら、どんな人にPixel 10の音が向いているのかを分かりやすく解説しますので、購入検討中の方や音質にこだわりたい方はぜひ最後までご覧ください。
AI時代に変わるスマートフォンのオーディオ評価軸
スマートフォンのオーディオ評価は、長らく音質の良し悪し、対応コーデックの多さ、スピーカーの迫力といった分かりやすい指標で語られてきました。しかしAIが中核に据えられた現在、その評価軸は静かに、しかし決定的に変わりつつあります。もはや音はそのまま再生される対象ではなく、AIによって理解・再構築・最適化される情報として扱われ始めています。
GoogleがPixel 10で示した方向性は象徴的です。Tensor G5に搭載された専用DSPやAlways-on Computeは、音楽再生だけでなく通話、録音、動画編集といった日常的な音体験すべてに介入します。オーディオ性能はスペック表に並ぶ数値ではなく、AI処理と密接に結びついたUXとして評価される段階に入りました。
| 従来の評価軸 | AI時代の評価軸 | ユーザー体験への影響 |
|---|---|---|
| 最大ビットレート | 環境適応型処理 | 場所や用途に応じて聴きやすさが変化 |
| 対応コーデック数 | 音声理解と分離精度 | 通話や動画で声が際立つ |
| スピーカー音量 | 知覚音質の最適化 | 小音量でも内容が把握しやすい |
たとえばPixelのクリア通話や音声消しゴムマジックは、単なるノイズ低減ではありません。Googleの公式技術解説によれば、これらはディープラーニングモデルによって音声と環境音を意味レベルで分離する仕組みです。これは波形の忠実性よりも、伝えたい情報が正確に届くかを重視する評価軸への転換を示しています。
Bluetooth 6.0のChannel Soundingも同様です。音質そのものを直接改善する技術ではないものの、デバイス間の距離や位置関係を高精度に把握できることで、空間オーディオや接続体験の信頼性が向上します。オーディオ評価は、音を出す瞬間だけでなく、接続前後の体験まで含めて測られるようになりました。
AI時代のスマートフォンオーディオで問われるのは、「どれだけ高音質か」ではなく「どれだけ賢く音を扱えるか」です。会話が聞き取りやすいか、不要な音を消せるか、状況に応じて最適な音場を作れるか。こうした知覚品質と実用性の総合点こそが、これからのオーディオ評価の中心になっていきます。
ガジェット好きにとって重要なのは、スペック競争の勝敗ではありません。AIが音体験をどう変え、そのスマートフォンが自分の日常でどんな価値を生むのか。オーディオ評価軸は今、技術の進化とともにユーザーの問いそのものを変え始めています。
Tensor G5がオーディオ体験に与える影響とは

Tensor G5がオーディオ体験に与える最大の影響は、単純な音質向上ではなく、音声処理の重心そのものをAIと専用DSPへ移した点にあります。Pixel 10シリーズで初めて採用されたTSMC製3nmプロセスの完全カスタムSoCは、CPUやGPUの性能競争から一歩距離を取り、日常的に使われる音の体験を効率よく、かつ知的に処理する方向へと設計思想を転換しています。
その中核を担うのが、Google独自のAoC(Always-on Compute)ユニットです。音楽再生時のデコード処理、通話中のノイズキャンセリング、音声アシスタントのウェイクワード検出といった常時稼働が求められる処理を、メインCPUを介さず低消費電力で実行します。Googleの技術解説によれば、この設計により長時間の音楽再生や通話でも発熱とバッテリー消費を抑制できるとされています。
特に実感しやすいのが通話品質です。Tensor G5では従来以上に音声信号と環境ノイズの分離精度が高まり、騒がしい屋外や公共交通機関でも相手の声が埋もれにくくなっています。これは単なる周波数フィルタではなく、機械学習モデルをDSP上で常時走らせる構造によるもので、音声処理をAIタスクとして扱うGoogleらしいアプローチです。
| 処理領域 | Tensor G5での変化 | ユーザー体験への影響 |
|---|---|---|
| 音楽再生 | DSP・AoCへのオフロード | 発熱低減、長時間再生時の安定性向上 |
| 通話音声 | AIベースの音声強調処理 | 雑音下でも聞き取りやすい通話 |
| 空間オーディオ | 専用メディアエンジンで処理 | 低遅延で自然な音像追従 |
一方で、この完全カスタム設計はトレードオフも生んでいます。Qualcomm製SoCが備えるSnapdragon Sound向けの専用オーディオ回路を持たないため、aptX Losslessのような最新コーデックをハードウェアレベルで最適化できません。これは性能不足ではなく、エコシステムを自前で構築するというGoogleの戦略的選択の結果です。
権威あるAndroid開発者向け資料でも指摘されているように、Tensor G5は業界標準への追従よりも、AndroidとGoogleサービスに最適化された体験を優先しています。そのためPixel 10のオーディオは、ハイエンドDAPのような純粋な音質競争ではなく、日常のあらゆる場面で音を快適に扱える総合体験として評価すべき存在です。
結果としてTensor G5は、「最高の音」を再生するためのSoCというより、「音を賢く処理し、生活の中で役立てる」ための頭脳として機能しています。この方向性に価値を感じるかどうかが、Pixel 10のオーディオ体験をどう評価するかの分かれ目になります。
Bluetooth 6.0対応で何が変わるのか
Bluetooth 6.0対応によって最も大きく変わるのは、音質そのものではなく、接続体験の質です。Pixel 10シリーズは米国市場向けスマートフォンとして初めてBluetooth 6.0を正式サポートし、従来のBluetoothが抱えてきた「不確実さ」を大きく減らす方向へ進化しました。
その中核となるのがChannel Soundingと呼ばれる新技術です。これまでのBluetoothは、電波の強さを示すRSSIをもとに距離や近接を推定していましたが、障害物や反射の影響を受けやすく、誤差は数メートル単位に及ぶことが一般的でした。Bluetooth 6.0では位相ベース測距とラウンドトリップタイムを組み合わせることで、センチメートル単位の距離測定が可能になります。
| 項目 | 従来Bluetooth | Bluetooth 6.0 |
|---|---|---|
| 距離測定方式 | RSSI(信号強度) | 位相測定+RTT |
| 測定精度 | 数メートル誤差 | センチメートル級 |
| 環境耐性 | 干渉に弱い | 反射や遮蔽物に強い |
この進化は、ワイヤレスオーディオの使い勝手に直結します。例えば、スマートフォンとタブレットを併用している場合、ユーザーが端末に近づいた瞬間を正確に検知し、ヘッドホンの接続先を自動で切り替えるといった動作の信頼性が大きく向上します。Android Policeなどの専門メディアも、Bluetooth 6.0は「音を良くする規格ではなく、音の切り替えや共有を確実にする規格」だと評価しています。
重要なのは、Bluetooth 6.0が遅延や音飛びといった体感トラブルの減少に寄与する点です。オーディオストリーミングでは、わずかな接続不安定が音切れとして顕在化します。Channel Soundingによる高精度なリンク管理は、マルチデバイス環境や混雑した電波状況下でも、接続を維持しやすくします。
また、この高精度な近接認識は、LE AudioやAuracastといった次世代オーディオ機能の土台にもなります。どのデバイスが「誰の近くにあるか」を正確に判断できるため、複数人が同じ空間で音声を共有する場面でも、誤接続や意図しない再生を防げます。Bluetooth SIGの仕様解説でも、Channel Soundingは将来的なオーディオ体験拡張を見据えた基盤技術と位置付けられています。
総じてBluetooth 6.0対応による変化は、スペック表では見えにくいものの、日常的にイヤホンや複数デバイスを使い分けるユーザーほど恩恵を感じやすい進化です。音質の数字競争ではなく、接続の確実性と体験の一貫性を高める点にこそ、この世代のBluetoothの本質があります。
Pixel 10のBluetoothコーデック対応状況を整理

Pixel 10のワイヤレスオーディオ体験を左右する最大の要素が、Bluetoothコーデックの対応状況です。結論から言えば、Pixel 10はAndroidスマートフォンとして必要十分なコーデックを幅広く押さえつつも、オーディオマニア向けの最先端規格とは一線を画す、Googleらしい選択をしています。
まず前提として、Pixel 10シリーズはA2DPの必須コーデックであるSBCに加え、AAC、LDAC、aptX、aptX HDをサポートしています。これはGoogle公式のスペック表に明示される情報ではなく、開発者オプションや実機検証を通じて確認された内容です。Android Authorityや開発者コミュニティの分析によれば、特にLDACが有効に使える点は、Pixelユーザーにとって重要な意味を持ちます。
LDACはPixel 10における事実上の最高音質コーデックであり、最大990kbps、96kHz/24bitの伝送に対応します。Sonyが開発し、AOSPに寄贈された経緯から、Googleは長年このコーデックをAndroid標準のハイレゾ手段として位置づけてきました。LDAC対応イヤホンを使えば、ストリーミング音源でも情報量の多い再生が可能です。
| コーデック | 最大ビットレート | Pixel 10の対応 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| SBC | 328kbps | 対応 | 全Bluetooth機器で利用可能な標準規格 |
| AAC | 256kbps | 対応 | iPhoneでも採用される高効率圧縮 |
| LDAC | 990kbps | 対応 | ハイレゾ相当の高音質伝送 |
| aptX HD | 576kbps | 対応 | Qualcomm系イヤホンとの相性が良い |
一方で注目すべきは、aptX LosslessとLHDCが非対応である点です。aptX LosslessはSnapdragon Soundの中核機能であり、Qualcomm製SoCと専用通信チップのハードウェア統合を前提としています。Tensor G5を採用するPixel 10では、この要件を満たせないため、構造的に対応が困難です。Redditや専門フォーラムでも、これはソフトウェア更新で解決できる問題ではないと指摘されています。
LHDCについても同様で、XiaomiやNothingなどが積極採用する一方、Googleは公式にサポートしていません。開発者オプション上で選択できない、あるいは表示自体されないという報告が多数あり、GoogleがLDACと次世代LE Audioに注力している姿勢が明確に表れています。
その次世代規格が、LE Audioで採用されるLC3コーデックです。Pixel 10はAndroid 16との組み合わせによりLC3を正式サポートしており、従来のSBCと比べて約半分のビットレートで同等以上の音質を実現します。Bluetooth SIGの技術資料でも、低消費電力と低遅延が強調されており、今後主流になる可能性は高いとされています。
総合すると、Pixel 10のBluetoothコーデック戦略は「業界標準と将来性」を重視したものです。aptX Losslessのような尖った規格は使えませんが、LDACとLC3を軸に、日常利用から高音質志向まで幅広くカバーしています。手持ちのイヤホンがどのコーデックに対応しているかを理解した上で選べば、Pixel 10のワイヤレスオーディオ性能を最大限に引き出せます。
aptX LosslessとLHDCが使えない理由
Pixel 10シリーズでaptX LosslessとLHDCが使えない理由は、単なる対応漏れやソフトウェアの成熟不足ではなく、SoC設計とエコシステム戦略に根差した構造的な問題にあります。ここを理解すると、Googleの判断がかなり一貫したものであることが見えてきます。
まずaptX Losslessについてです。このコーデックはQualcommが推進するSnapdragon Soundの中核技術であり、単体のBluetoothコーデックというより、SoC・RFチップ・ファームウェアまで含めた統合プラットフォームとして設計されています。Qualcommの技術資料やAndroid Authorityの分析によれば、aptX LosslessはSnapdragon 8 Gen系SoCとFastConnectチップのハードウェア連携を前提としており、ソフトウェア実装だけで成立するものではありません。
Pixel 10に搭載されるTensor G5は、TSMC 3nmで製造されたGoogle完全カスタムSoCです。この時点でQualcommのオーディオIPは一切含まれておらず、aptX Losslessを有効化するための物理的な回路ブロック自体が存在しません。仮にライセンス契約が成立したとしても、ハードウェア非搭載の状態でCD品質ロスレス伝送を安定させるのは現実的ではなく、Googleにとって採用メリットは極めて低い選択肢になります。
| 項目 | aptX Lossless | LHDC |
|---|---|---|
| 主導企業 | Qualcomm | Savitech |
| 必須条件 | Snapdragon Sound対応SoC | メーカー独自実装 |
| AOSP標準 | 非標準 | 非標準 |
| Pixel 10対応 | 非対応 | 非対応 |
次にLHDCが使えない理由です。LHDCはXiaomiやOPPO、Nothingなどで採用実績はあるものの、Android全体の標準技術にはなっていません。GoogleはSonyからAOSPに寄贈されたLDACを「公式ハイレゾBluetoothコーデック」と位置づけており、開発リソースを分散させてまでLHDCを追加する合理性が乏しいのが実情です。
実際、Pixel 10の開発者オプションではLHDCが表示されない、もしくはグレーアウトされるという報告が多数あります。これはバグではなく、Googleが意図的にLHDCをサポート対象外としている明確なサインと見るべきでしょう。Google公式ドキュメントやAndroid Developersの方針を見ても、今後の重点はLDACとLE Audio向けLC3に置かれていることが読み取れます。
つまりPixel 10でaptX LosslessとLHDCが使えないのは、「技術的に遅れているから」ではありません。Tensor G5を軸に、AI処理・省電力・Android標準技術を優先するというGoogleの思想が、そのままBluetoothコーデックの選択に反映された結果です。Snapdragon Soundや中国系ハイレゾ規格とは距離を置くという判断が、ここではっきり形になっています。
LE Audio・LC3・Auracastがもたらす新しい使い方
LE AudioとLC3、そしてAuracastの登場によって、Bluetoothオーディオは「高音質化」だけでなく、使い方そのものが大きく変わり始めています。Pixel 10とAndroid 16の組み合わせは、この変化をいち早く日常体験へ落とし込む存在です。
中核となるLC3コーデックは、Bluetooth SIGの公式仕様書でも明言されている通り、従来のSBCと比べて約半分のビットレートで同等以上の知覚音質を実現します。これは単なる理論値ではなく、Bluetooth SIGやAndroid Developersの解説でも、省電力性と安定性の両立が強調されています。その結果、通勤中に長時間イヤホンを使ってもバッテリー消費が抑えられ、音切れ耐性も向上します。
特に実感しやすいのが、低遅延の恩恵です。LC3は設計段階から低レイテンシを前提としており、Pixel 10では動画視聴やカジュアルゲームで口の動きと音声が自然に一致する体験が得られます。これはaptX系に依存せず、標準規格として実装されている点が重要で、対応イヤホンが増えるほど恩恵が広がります。
| 要素 | 従来Bluetooth Audio | LE Audio(LC3) |
|---|---|---|
| 消費電力 | 比較的高い | 低消費電力設計 |
| 遅延 | 動画・ゲームでズレが出やすい | 低遅延で同期しやすい |
| 拡張性 | 1対1接続が基本 | ブロードキャスト対応 |
そしてLE Audioの象徴的な機能がAuracastです。Auracastは「ペアリング」という概念を超え、音声をWi-Fiのアクセスポイントのように周囲へ一斉配信できます。Google公式ブログやAndroid 16の発表によれば、空港やジム、イベント会場の音声案内を自分のイヤホンで直接聴くといった利用シーンが想定されています。
Pixel 10では、設定画面から近くのAuracastストリームを検索し、タップするだけで参加できます。友人と動画の音声を共有する、展示会の解説音声を各自の言語設定で聴くといった使い方も現実味を帯びています。音を「個人に閉じたもの」から「場で共有するもの」へ変える点こそ、Auracastの本質です。
LE Audio・LC3・Auracastは、スペック表では見えにくい進化ですが、日常の細かなストレスを確実に減らします。Pixel 10は、その変化を最初から前提に設計された数少ないスマートフォンとして、新しいBluetooth体験の入口に立っていると言えます。
有線オーディオとAndroid 16のビットパーフェクト問題
有線オーディオにおいて、Pixel 10とAndroid 16の組み合わせは、音質にこだわるユーザーほど違和感を覚えやすい状況です。その核心にあるのが、長年Androidが抱えてきたSRC、サンプリングレート変換の問題です。Androidの標準オーディオミキサーであるAudioFlingerは、複数アプリの音を混在させる設計上、ほぼ例外なく48kHzへ変換します。
その結果、44.1kHzのCD音源や96kHz、192kHzのハイレゾ音源であっても、内部処理段階で別の波形に作り替えられてしまいます。Audio Science Reviewなどの測定によれば、この非整数倍変換では量子化ノイズや位相ズレが発生し、特に高性能な外部DACほど差が可視化、可聴化しやすいと指摘されています。
ビットパーフェクト再生とは、音源データを一切加工せずDACへ渡すことですが、Androidの設計思想そのものが、これと根本的に相容れないのが実情です。
| 項目 | 通常のAndroid再生 | ビットパーフェクト再生 |
|---|---|---|
| サンプリングレート | 48kHzに強制変換 | 音源そのまま |
| OSミキサー | 経由する | バイパス |
| 音質傾向 | 均質だが情報量減少 | 原音忠実 |
従来はUSB Audio Player ProやNeutron Music Playerのように、独自USBドライバーを備えたアプリが、この問題の現実的な回避策でした。これらはOSのミキサーを通さず、DACと直接通信することで、事実上の排他モードを実現してきました。
しかしAndroid 16では、この前提が揺らいでいます。Google公式フォーラムや開発者コミュニティによれば、USB DAC接続時のオーディオルーティングが強制的にロックされ、外部DACへ正常に出力されない回帰バグが確認されています。再生速度が極端に遅くなる、音が消失するなどの症状は、クロック同期の失敗が原因と分析されています。
さらに問題なのがDACとの相性です。Reddit上では、特定のUSB-CドングルDAC接続時に突発的な爆音ノイズが発生したという報告が複数あり、Googleサポートでも安全上の注意喚起が行われています。これはUSBクラス準拠の解釈差や給電制御の厳格さが影響している可能性が高いとされています。
ストリーミングアプリ側も状況は厳しく、Apple MusicやAmazon MusicのAndroid版はいずれも完全な排他制御を実装していません。Appleの公式サポート情報でも、AndroidではDACのサンプリングレートが曲ごとに追従しない仕様が認められています。
現時点で、Pixel 10とAndroid 16環境において有線で安定したビットパーフェクト再生を行うには、対応実績のあるDACを慎重に選び、かつ挙動を確認しながら運用する必要があります。利便性を優先するOS設計と、音質至上主義の要求が正面衝突している点こそが、この問題の本質です。
内蔵スピーカーとマイク性能の実態
Pixel 10シリーズの内蔵スピーカーとマイク性能は、数値上のスペックと実際の体感にギャップがある点が特徴です。第三者機関によるラボテストでは、スピーカー音量は最大-25.7 LUFSと評価されており、これはGSMArenaやDxOMarkの基準で「非常に良好」に分類されます。屋外や雑音の多い環境でも通知音や動画の音声が埋もれにくく、実用面では十分な音圧を確保しています。
一方で、音質の方向性には明確な癖があります。**高音域が前に出るチューニングのため、音が金属的で軽く感じられやすい**という指摘が多く、低音の量感や中域の厚みでは競合フラッグシップに及ばない印象です。Android Authorityやユーザーレポートでも、音楽再生よりも動画視聴や音声中心のコンテンツに最適化されていると分析されています。
音量を70%以上に上げた際の筐体振動も見逃せません。背面ガラス全体が共振し、手持ち視聴時に細かな振動が伝わるケースが報告されています。これはスピーカーユニット自体の性能というより、内部のダンピング処理や配置設計の影響と考えられており、音の解像感よりも快適性を損なう要因になり得ます。
| 評価項目 | 実測・傾向 | 体感上のポイント |
|---|---|---|
| 最大音量 | -25.7 LUFS | 屋外でも十分に聞こえる |
| 音質傾向 | 高音寄り | 低音の迫力は控えめ |
| 振動 | 高音量時に発生 | 長時間視聴で疲れやすい |
マイク性能については、PixelらしくAI処理の恩恵が大きい反面、物理配置の変更が弱点として表れています。Pixel 10 Pro XLでは、横持ちゲーム時の音のこもりを防ぐ目的で底面スピーカーとマイクの位置関係が見直されました。しかしその結果、通常の縦持ち撮影や録音時に**指でマイク孔を覆いやすく、音がこもる**という逆の問題が発生しています。
Notebookcheckによる検証では、動画撮影時にステレオバランスが崩れたり、特定方向の音だけが強調されるケースが確認されています。ハードウェア由来の問題であるため、ソフトウェア更新だけでの完全解消は難しく、ユーザー側の持ち方に注意が必要です。
ただし、純粋な収音品質そのものは依然として高水準です。Googleの公式ドキュメントでも言及されているように、Tensor G5のAoCと連動したノイズリダクションにより、**人の声の明瞭度は同クラスでもトップレベル**です。風切り音や環境ノイズを抑えつつ、声の輪郭を保つ処理は、通話や簡易収録では専用レコーダーに近い安定感があります。
総合すると、Pixel 10の内蔵スピーカーとマイクは「高音質で楽しむ」よりも「確実に聞き取り、正確に伝える」ことを重視した設計です。数値やAI処理では優秀である一方、筐体設計に起因するクセも抱えており、ガジェット好きほど長所と短所を理解した使い分けが求められる仕上がりと言えます。
AIが再構築するPixel 10の音体験
Pixel 10の音体験で最も象徴的なのは、ハードウェア性能の競争から一歩距離を取り、AIによって音そのものを再構築するという発想です。Tensor G5に搭載された専用AIエンジンは、音を単なる波形として扱うのではなく、意味や文脈を持つ情報として解析し、状況に応じて最適化します。これにより、従来のスマートフォンでは不可能だったレベルの知覚的な音質改善が実現されています。
代表的な機能が、通話時に有効化されるクリア通話です。Googleの公式技術解説によれば、この仕組みは周囲の雑音を一律に削る従来型ノイズキャンセルとは異なり、深層学習モデルで人の声だけを抽出・強調します。実際、交通量の多い屋外やカフェ環境でも、相手の声の輪郭が保たれ、子音が潰れにくい点が特徴です。音質の良し悪しを超えて、会話の理解度そのものを引き上げる設計と言えます。
動画撮影後の編集体験でも、AIの存在感は際立ちます。音声消しゴムマジックは、録音された音を複数の音源レイヤーに分解し、それぞれを個別に調整できる機能です。Googleフォトのデモでは、風切り音や周囲の話し声だけを下げ、被写体の声を自然に残す処理が数秒で完了します。これは放送業界で使われる音源分離技術に近いアプローチで、専門家からもモバイル実装としては異例の完成度だと評価されています。
| AI処理機能 | 対象シーン | 体感的な効果 |
|---|---|---|
| クリア通話 | 音声通話 | 雑音下でも声の明瞭度が向上 |
| 音声消しゴムマジック | 動画編集 | 不要音だけを直感的に除去 |
| 空間オーディオAI補正 | 動画・映画視聴 | 定位感と没入感の向上 |
空間オーディオも、Pixel 10では単なる対応にとどまりません。Tensor G5は再生コンテンツを解析し、ヘッドトラッキング情報と組み合わせてリアルタイムで音像を再配置します。Googleのサポート情報によると、この処理は常時低消費電力コアで動作し、遅延を最小限に抑えています。その結果、頭を動かした際の音の追従が自然で、違和感を覚えにくいのが特徴です。
このようにPixel 10の音体験は、スペック表に現れにくい部分で価値を発揮します。完璧な原音再生ではなく、ユーザーが置かれた環境や目的に合わせて音を再定義する。AIが介在することで、スマートフォンのオーディオは「聴くための機能」から「理解し、編集し、活用するための道具」へと進化しているのです。
iPhone・Xperiaとのオーディオ性能比較
Pixel 10のオーディオ性能を正しく評価するには、iPhoneやXperiaといった明確に思想の異なる競合と並べて見ることが欠かせません。結論から言えば、Pixel 10は音質そのものの完成度ではXperiaに及ばず、安定性や一体感ではiPhoneに一歩譲る一方で、AI処理を前提とした音声体験という独自軸で差別化しています。
まずBluetoothオーディオの観点です。iPhoneはAACを事実上の標準とし、AirPodsとの組み合わせで一貫した音質と低遅延を実現しています。Appleの公式技術資料でも示されている通り、AACはビットレートこそ控えめですが、実装の最適化によって聴感上の破綻が少ないのが特徴です。一方XperiaはaptX LosslessやLDACなど、現行スマートフォンで考え得る最高水準のコーデック群を網羅し、ワイヤレスでもロスレス級を狙える構成です。
Pixel 10はLDACに対応するものの、aptX Losslessには非対応です。この点だけを切り取ると不利に見えますが、GoogleはBluetooth 6.0やLE Audioを見据え、将来の接続体験を重視しています。Android Policeによれば、Channel Soundingによる近接認識の精度向上は、マルチデバイス環境での音声切り替え体験を大きく変える可能性があります。
| 比較項目 | Pixel 10 | iPhone | Xperia |
|---|---|---|---|
| 主要BTコーデック | LDAC / AAC | AAC | LDAC / aptX Lossless |
| 有線オーディオ | USB-Cのみ | USB-C(排他設定可) | 3.5mm+USB-C |
| 思想の軸 | AI処理と利便性 | 安定性と統合体験 | 純粋音質重視 |
有線再生では違いがさらに明確です。Xperiaは3.5mmジャックを維持し、Android端末としては稀有なビットパーフェクト再生環境を構築できます。iPhoneもUSB-C経由で高品質再生が可能ですが、Apple Musicとの組み合わせを前提とした設定が必要です。Pixel 10は外部DAC利用時のSRC問題や相性報告があり、Audio Science Reviewなどの測定系メディアでも課題が指摘されています。
内蔵スピーカーでは、iPhoneが依然として業界ベンチマークです。GSMArenaのラボテストでも、音量と音の厚みのバランスはiPhoneが最も安定しています。Xperiaは定位感に優れる一方、絶対音量では控えめです。Pixel 10は音量自体は十分ですが、高域寄りで質感に好みが分かれます。
こうして比べると、**Pixel 10はオーディオを「鑑賞」する端末というより、「音声を活用する」ためのデバイス**だと分かります。通話のノイズ除去や動画編集時の音声分離といった体験は、iPhoneやXperiaにはない強みであり、音の使い方そのものが異なる立ち位置にあると言えるでしょう。
参考文献
- Android Authority:How Google built the Pixel 10’s Tensor G5 without Samsung’s help
- Android Police:The Pixel 10 brings Bluetooth 6 and its improvements to the masses
- GSMArena:Google Pixel 10 review: Lab tests, speakers
- Headphonesty:Android Devices Are Turning Lossless Streams Lossy Based on New Tests
- Google公式ブログ:Android 16 is here
- Notebookcheck:Pixel 10 Pro XL users facing audio recording issues, here’s the reason
