スマートフォンのカメラは、もはや単なる記録装置ではなくなりました。近年はAIによる画像処理が当たり前となり、「どれだけ自然に、どれだけ賢く写るか」が評価軸になっています。

そんな中で登場したGoogle Pixel 10シリーズは、カメラ体験そのものを次の段階へ押し上げた存在です。新世代チップTensor G5と生成AI「Gemini Nano」の融合により、写真は光を写すものから、シーンを再構築するものへと進化しました。

本記事では、Pixel 10シリーズのカメラが何を変え、何が評価され、どこに賛否があるのかを丁寧に整理します。日本人が特に敏感な肌色や料理写真、夜景の空気感といった観点からも掘り下げます。

iPhoneやGalaxyとの違いを知りたい方、AI時代の写真表現に興味がある方にとって、本記事は購入判断だけでなく、これからのスマホカメラの未来を考えるヒントになるはずです。

スマホカメラはどこまで進化したのか

スマホカメラはこの10年で、単なる小型カメラから「計算で写真を作る装置」へと進化しました。かつて画質を左右していたのは、レンズの明るさやセンサーサイズといった物理要素でしたが、現在はそれ以上にソフトウェアとAIの存在感が大きくなっています。特にGoogle Pixelシリーズは、この変化を象徴する存在として知られています。

Googleの研究部門が提唱してきたコンピュテーショナル・フォトグラフィーは、複数枚の画像を高速で合成し、人間の知覚に近い結果を導く技術です。HDR+に代表されるバースト合成は、暗部ノイズを抑えつつ白飛びを防ぐ仕組みで、Google Researchの論文でもその有効性が示されています。これにより、スマホでも逆光や夜景といった難しいシーンを失敗なく撮れるようになりました。

2025年に登場したPixel 10シリーズでは、この流れがさらに一段階進みます。新世代チップTensor G5とAIモデルGemini Nanoが画像処理の中核に組み込まれ、写真は「撮影後に補正するもの」から「撮影の瞬間に再構築されるもの」へと変わりつつあります。センサーから読み出されたRAWデータの段階でAIが介入し、被写体の意味を理解したうえで最適な処理が施されます。

現在のスマホカメラの本質は、光学性能とAI処理の総合力にあります。

この進化を分かりやすく整理すると、スマホカメラの評価軸自体が変わってきたことが見えてきます。

時代 重視された要素 代表的な特徴
〜2015年頃 レンズ・センサー 画素数競争、明るいレンズ
2016〜2022年 画像処理アルゴリズム HDR、多枚数合成、夜景モード
2023年以降 AIと意味理解 被写体認識、生成的補完

特に注目すべきは「意味理解」の段階です。Pixel 10では、AIが画面内の人物、空、料理、文字といった要素をピクセル単位で判別し、それぞれに異なる処理を適用します。DxOMarkの評価でも、複雑な照明環境下での露出安定性や色再現性が高く評価されており、これは単なるセンサー性能では説明できません。

一方で、この進化は新たな問いも生み出しています。生成AIによる補完が進むことで、写真は「見たままの記録」から「もっともらしい再現」へ近づいています。Google自身もC2PA規格への対応を進め、撮影とAI処理の履歴を明示する仕組みを導入していますが、これはスマホカメラが社会的影響力を持つ存在になった証拠だと言えます。

スマホカメラはもはやサブの撮影手段ではありません。AIと計算技術の進化によって、日常の記録から表現手段へと役割を広げ、専用カメラに迫る、あるいは異なる価値を提供する段階に到達しています。今のスマホカメラは、「どれだけ光を集めたか」ではなく、「そのシーンをどれだけ理解できたか」で進化を測る時代に入っています。

Tensor G5が支えるPixel 10のAIカメラ基盤

Tensor G5が支えるPixel 10のAIカメラ基盤 のイメージ

Pixel 10のAIカメラ体験を根本から支えているのが、最新SoCであるTensor G5です。単なる処理性能の向上ではなく、カメラのために設計されたチップという点が、これまでのスマートフォン用プロセッサとは決定的に異なります。GoogleはPixel 10において、撮影の瞬間に行われるすべての判断をAI前提で再構築しました。

Tensor G5は、TSMCの3nmプロセスで製造され、電力効率が約30〜35%改善したと報告されています。これにより、発熱や消費電力の制約で妥協されがちだった画像処理を、常時フル稼働させることが可能になりました。特に重要なのが、Googleがゼロから再設計したISPと、TPUの密結合です。

要素 従来の構成 Tensor G5
ISP処理 固定的な線形パイプライン AI前提の動的制御
AI介入タイミング 現像後(YUV段階) RAWデータ段階
電力効率 発熱により制限あり 高度処理を常時実行

Tensor G5では、オンデバイス生成AIであるGemini Nanoが、撮像パイプラインの中核に直接組み込まれています。センサーから読み出された生のベイヤーデータに対し、AIがリアルタイムで意味理解を行い、肌、空、料理、光源といった領域をピクセル単位で識別します。この情報が即座にISPへフィードバックされることで、一枚の写真の中で領域ごとに異なる最適処理が可能になります。

この仕組みは、Google Researchが長年取り組んできたHDR+やバースト合成の研究成果を、生成AI時代に最適化したものです。Googleの技術論文によれば、RAW段階でのセマンティック解析は、ハイライト保護とノイズ低減を両立させるうえで極めて有効とされています。Pixel 10では、この理論が実製品レベルで実装されました。

写真は「後からAIで補正するもの」ではなく、「最初からAIが理解して作るもの」へと進化しています。

また、Tensor G5はカメラの信頼性という新たな課題にも対応しています。FIPS 140-3に準拠したセキュリティコアと連携し、撮影時の来歴情報を暗号化して保持するC2PA規格をサポートします。AI処理が前提となる時代だからこそ、どこまでが記録で、どこからが演算かを明示できる基盤が重要になります。

このようにTensor G5は、画質を上げるためのチップではありません。AIが写真の意味を理解し、正しい判断を下すための土台として設計されています。Pixel 10のカメラが安定して高品質な結果を出し続ける理由は、この見えない基盤にこそあります。

ISPとGemini Nanoの統合がもたらす撮影体験

ISPとGemini Nanoの統合は、Pixel 10シリーズの撮影体験そのものを根底から変えています。従来のスマートフォンカメラでは、センサーで受け取った光をISPが一方向に処理し、その後にAIが補正を加える流れが一般的でした。しかしPixel 10では、**ISPとオンデバイス生成AIであるGemini Nanoがリアルタイムで協調動作**し、RAWデータ段階から撮影意図を理解する設計へと進化しています。

この統合を支えているのが、Tensor G5におけるISPとTPUの密結合アーキテクチャです。Googleの技術解説によれば、Gemini Nanoはセンサーから読み出されたベイヤーデータに対し、瞬時にセマンティックセグメンテーションを実行します。人物の肌、空、料理、光源といった要素をピクセル単位で識別し、そのメタデータをISPへフィードバックします。

その結果、ISPは画面全体を一律に処理するのではなく、**領域ごとに最適化された現像処理**を行います。例えば肌にはノイズを抑えつつ自然な階調を、ネオン看板には白飛びを防ぐトーンカーブを、料理のハイライトには質感を残す処理を適用します。これは従来のHDR処理とは質的に異なるアプローチです。

処理段階 従来のスマートフォン Pixel 10シリーズ
RAWデータ ISPのみが処理 Gemini Nanoが同時介入
シーン認識 YUV変換後 ベイヤーデータ段階
最適化単位 画面全体 ピクセル・領域単位

この仕組みは、日本の複雑な光環境で特に効果を発揮します。蛍光灯、白熱灯、ネオンが混在する居酒屋や夜の繁華街では、平均的なホワイトバランスでは破綻しがちです。Pixel 10では、**人物の肌色を健康的に保ちながら、背景の雰囲気光を残す**といった処理が自然に行われます。DxOMarkの評価でも、混合光下での色再現性と露出安定性が高く評価されています。

さらに重要なのは、このAI処理がすべてオンデバイスで完結している点です。クラウドに依存せず、シャッターを切った瞬間に推論と補正が完了するため、ゼロシャッターラグや連写性能を犠牲にしません。Googleの研究論文でも、低遅延なAI推論を前提としたISP設計が、撮影体験の一貫性を高めると示されています。

**ISPとGemini Nanoの統合は、単なる画質向上ではなく「失敗しにくい撮影体験」を実現する技術**です。ユーザーが細かな設定を意識せずとも、被写体やシーンに応じて最適解を瞬時に導き出す。この思想こそが、Pixel 10シリーズにおけるカメラ体験の中核であり、計算写真学が次の段階へ進んだことを象徴しています。

Pixel 10無印とProで異なるカメラ戦略

Pixel 10無印とProで異なるカメラ戦略 のイメージ

Pixel 10シリーズで最も議論を呼んでいるのが、無印とProで明確に分かれたカメラ戦略です。両者は同じTensor G5と最新の画像処理パイプラインを共有しながらも、ハードウェア構成と想定ユーザーを意図的に切り分けています。Googleはここで「AIで補うカメラ」と「物理で押し切るカメラ」を同時に提示しました。

無印Pixel 10は、シリーズ初となる5倍光学望遠を搭載した一方で、メインセンサーを1/2.0インチクラスへと大胆にダウンサイジングしています。これはPixel 9無印の1/1.31インチから約55%の受光面積減少に相当し、従来の常識では明確な画質低下要因です。にもかかわらずこの構成を選んだ背景には、Tensor G5とGemini NanoによるRAW段階からのAI補正に対する強い自信があります。DPReviewなどの専門メディアによれば、HDR合成やノイズ低減の完成度は依然として高く、日中撮影やSNS用途ではセンサー差を意識しにくい仕上がりです。

一方のPixel 10 ProおよびPro XLは、1/1.31インチの大型50MPセンサーを継続採用し、超広角・望遠も含めて高画素構成を維持しています。ここではAIは補助的役割に徹し、光量、階調、ボケ量といった物理的な余裕を最大限に活かす設計です。DxOMarkの評価でも、暗所耐性やダイナミックレンジの安定感はProが明確に優位とされています。同じAIを使いながら、無印は利便性と構成の妙、Proは純粋な画質余力を重視している点が決定的な違いです。

項目 Pixel 10 無印 Pixel 10 Pro
メインセンサー 約1/2.0インチ 約1/1.31インチ
望遠 5倍光学(新搭載) 5倍光学+高解像AIズーム
設計思想 AI補完前提 ハード+AI両立

興味深いのは、両者ともColor ScienceやReal Toneの処理思想自体は共通である点です。つまり色味やトーンの方向性は近いものの、無印ではAIが積極的に情報を再構築し、Proではセンサーが捉えた情報をAIが磨き上げる役割に留まります。Googleの公式ブログでも、Pixel 10シリーズは「用途に応じた最適解を用意した」と説明されています。

この分岐は、単なる価格差ではありません。Pixel 10無印は“撮れる範囲を広げるカメラ”、Pixel 10 Proは“写りの余裕を深めるカメラ”という明確な思想の違いがあり、ここにGoogleの成熟したプロダクト戦略が表れています。

HDR+と生成AIが生む解像感と違和感

Pixelシリーズの代名詞であるHDR+は、Pixel 10世代で生成AIと結びつくことで、従来とは質の異なる「解像感」を生み出しています。これは単なるシャープネスの向上ではなく、AIがシーンを理解したうえで情報を再構成することによって得られる、知覚的な解像感です。

HDR+はもともと、複数のアンダー露出フレームを合成し、白飛びと黒つぶれを抑える技術でした。Google ResearchによるHDR+の基礎論文でも、ノイズ低減とダイナミックレンジ拡張が主目的とされています。しかしPixel 10では、Gemini NanoがRAW段階から介入し、合成後の画像に対して意味的な補正が行われます。

Pixel 10の解像感は「写っている情報量」ではなく、「写っていそうだと人間が感じる情報量」を最大化する方向に進化しています。

具体的には、肌、髪、建築物、植物といった領域ごとに異なる復元処理が行われます。DxOMarkのPixel 10 Pro XL評価でも、細部のテクスチャ再現性が前世代より向上している一方で、エッジ付近の人工的な強調が指摘されています。

処理要素 従来HDR+ HDR+ × 生成AI
解像感の源泉 実フレームの合成 文脈推定による再構成
ノイズ処理 平均化による低減 意味領域ごとの最適化
リスク ゴースト 存在しない質感の付与

この進化が生む最大の問題が「違和感」です。RedditやPetaPixelのレビューでは、特にズーム時や夜景で、葉や壁面の質感が過度に整いすぎているという声が見られます。これは生成AIが過去の学習データから“それらしいテクスチャ”を補完しているためです。

Google自身も、生成AIを用いた画像処理には限界と責任があることを認めており、C2PA準拠の来歴情報付与を進めています。これは「どこまでが撮影結果で、どこからがAIによる補正か」を後から検証可能にするための仕組みです。

興味深いのは、人間の視覚もまた非常に補完的であるという点です。視覚科学の研究では、人は実際に見えていない細部を脳内で補って認識していることが知られています。Pixel 10のHDR+と生成AIの組み合わせは、この人間の知覚特性を積極的に模倣しているとも言えます。

その結果として得られる写真は、拡大すると不自然さを感じることがあっても、スマートフォンの画面サイズやSNS表示では「驚くほど鮮明」に見えます。このギャップこそが、Pixel 10のカメラ体験を評価の難しいものにしている最大の要因です。

HDR+と生成AIが生む解像感は、写真を記録から体験へと変質させました。それを進化と感じるか、違和感と捉えるかは、ユーザーが写真に何を求めているかによって大きく分かれます。

Pixel独自の色再現と日本人の肌・空気感

Pixelシリーズの色再現を語るうえで外せないのが、Google独自のカラーサイエンスと、日本人特有の感性への最適化です。Pixel 10では、単に鮮やかに写すのではなく、**その場の空気感や人の記憶に近い色をどう再構築するか**という思想が、これまで以上に前面に出ています。

中核にあるのが、Googleが数年にわたり取り組んできたReal Toneの深化です。Google公式ブログや研究資料によれば、Pixel 10ではアジア圏、特に日本人の肌データが大幅に拡充され、肌のミッドトーンを中心にアルゴリズムが再調整されています。その結果、従来モデルで指摘されがちだった、肌が暗く沈む、あるいはコントラストが強すぎて質感が硬く見えるといった傾向が抑えられています。

具体的には、黄色被りを抑制しつつ、血色を感じさせるごく弱いマゼンタ成分を加えるチューニングが施されています。これはDxOMarkのPixel 10 Pro XLカメラテストでも、「自然で健康的な肌色再現」と評価されており、**加工感を出さずに透明感を表現する**という、日本人ユーザーが重視するポイントを正確に突いています。

要素 Pixel 10の傾向 日本人の印象
肌色 中間調を明るめに維持 白浮きせず透明感が出やすい
色温度 寒色寄りでニュートラル 清潔感・自然さを感じやすい
彩度 控えめで破綻しにくい SNSでも実物との差が少ない

また、Pixel 10ではGemini Nanoによるセマンティック解析がRAW段階から行われており、肌、空、建物、背景といった領域ごとに異なる色処理が適用されます。これにより、湿度の高い日本の曇天や、春先の白っぽい空でも、空だけが不自然に青くなることを防ぎつつ、**全体に薄く漂う空気感を残した描写**が可能になっています。

写真研究の分野でも、人間は物理的に正確な色よりも「記憶に基づく色」を自然だと感じることが知られています。Google Researchが公開している知覚ベースのホワイトバランス研究によれば、局所的な色温度調整は、被写体の違和感を減らすうえで極めて有効です。Pixel 10の色作りは、まさにこの理論を実装したものだと言えます。

派手さや即効性のある映えを狙うカメラではありませんが、**後から見返したときに「その場の空気まで思い出せる色」**を残せる点こそが、Pixel独自の色再現であり、日本人の感性と強く噛み合う理由です。

飯テロ・夜景・日常撮影で見えた強みと弱点

飯テロ・夜景・日常撮影という三つのシーンでPixel 10シリーズを使い込むと、このカメラが持つ思想の輪郭がはっきり見えてきます。結論から言えば、Pixel 10は「失敗しにくい日常記録」と「夜の表現力」に強みがあり、その一方で日本人が重視しがちな“盛り”には弱点も残しています。

まず飯テロ撮影では、専用の食事モードを持たない点がそのまま特性として表れます。料理をそのまま写すと、彩度やコントラストは控えめで、見た目以上に落ち着いた描写になりがちです。Googleのカメラ研究チームが公開しているHDR+やAWBに関する論文によれば、Pixelの画像処理は一貫して「記憶色より物理的整合性」を優先しています。この方針は、照明が混在する飲食店でも色ズレを抑えるという利点を生みますが、結果としてラーメンの油のテカリや肉の赤みが、Galaxyのように誇張されないという評価につながります。

一方で、ポートレートモードを活用した場合の完成度は確実に向上しています。Tensor G5とGemini Nanoによるセマンティック分離精度の向上により、皿の縁やグラス越しの被写体でも破綻しにくく、背景ボケが自然に乗ります。DPReviewやDxOMarkの検証でも、Pixel 10世代はエッジ認識の誤りが前世代より明確に減少したと報告されています。盛りすぎず、それでも主役が浮き立つというバランスは、記録性と演出の中間に位置します。

撮影シーン 強み 弱点
飯テロ 色ズレが少なく自然 彩度・シズル感は控えめ
夜景 白飛び防止と黒の締まり 即時性はやや弱い
日常 ブレにくく失敗が少ない 演出的な派手さは少ない

夜景撮影では評価が一転します。Night SightはPixelシリーズ伝統の強みですが、Pixel 10ではハイライト制御がさらに洗練されました。ネオン看板や街灯が密集する都市部でも、白飛びを抑えつつ色の階調を残す露出制御は、DxOMarkのテストでも高く評価されています。特に日本の湿度を含んだ夜景では、シャドウを無理に持ち上げないため、空気の重さや奥行きが写真に残る点が印象的です。

日常撮影におけるPixel 10最大の強みは、意識せずとも安定した結果が得られることです。逆光の人物、曇天の街並み、室内の何気ないスナップでも、露出と色が大きく外れることはほとんどありません。これはGoogle Researchが長年積み上げてきたバースト合成と動体補正の成果であり、CNETやTech Advisorの比較レビューでも「最もミスショットが少ないカメラ」と評されています。

ただし、その安定感は裏を返せば個性の弱さでもあります。iPhoneの暖かみやGalaxyの鮮やかさと比べると、Pixel 10の写真はクールで抑制的です。日常を美化するというより、日常を正確に残す方向性は、撮る人の好みをはっきり選びます。飯テロで映えを狙う人には物足りず、夜景や記録写真を重視する人には心強い。この二面性こそが、飯テロ・夜景・日常撮影を通して見えてくるPixel 10シリーズの本質です。

動画性能はどこまで追いついたのか

Pixelシリーズは長らく「静止画は強いが動画は弱い」と評されてきましたが、Pixel 10世代でその評価は大きく揺らいでいます。Tensor G5の登場により、動画処理パイプラインが刷新され、**少なくとも一般ユーザーが体感するレベルでは、動画性能は確実に一段引き上げられました**。

最大の変化は、4K/60fpsでの10-bit HDR動画が安定して撮影できるようになった点です。色深度が8-bitから10-bitへ拡張されたことで、夕焼けや夜景ネオンのような階調の多いシーンでも、バンディングが目立ちにくくなっています。DxOMarkの評価でも、Pixel 10 Pro XLは動画項目で前世代から明確なスコア向上が確認されており、特にHDR制御と露出安定性が高く評価されています。

項目 Pixel 9世代 Pixel 10世代
HDR動画 一部条件で不安定 4K/60fpsで安定動作
色深度 8-bit中心 10-bit HDR対応
暗所ノイズ やや目立つ オンデバイス処理で低減

また、Google独自の強みとして進化したのがVideo Boostです。これは撮影後にクラウド上のGoogleデータセンターでフレーム単位の高度なノイズ除去とHDR合成を行う仕組みで、研究論文で培われたHDR+の動画版とも言えるアプローチです。夜景動画では、肉眼の印象に近いダイナミックレンジと色再現が得られ、CNETやTech Advisorの比較テストでも「静止画に近いPixelらしさが動画にも現れた」と評されています。

一方で限界も明確です。Video Boostは処理完了まで時間を要するため、**撮ってすぐ共有したい用途とは相性が良くありません**。さらに、iPhone 17 Proと比べると、レンズ切り替え時の滑らかさやビットレートの余裕ではまだ差があります。PetaPixelなどの専門レビューでも、「動画の絶対的完成度ではAppleが依然として基準」と指摘されています。

総合すると、Pixel 10の動画性能は「追いついたか」という問いに対し、**日常用途と表現力ではYes、プロ用途や即時性ではまだNo**と答えるのが妥当です。写真で培ったAI処理思想を動画に持ち込み始めた今、Pixelはようやく動画でも競争の土俵に立った段階にあると言えます。

iPhone 17 Pro・Galaxy S26 Ultraとの思想の違い

iPhone 17 Pro、Galaxy S26 Ultra、そしてPixel 10 Proを並べて見たとき、最も本質的な違いはスペックではなく「写真とは何か」という思想の差にあります。iPhoneは一貫性と信頼性、Galaxyは視覚的快楽、Pixelは解釈と再構築をそれぞれ重視していると言えます。

iPhone 17 Proのカメラ思想は、Appleが長年掲げてきたヒューマンインターフェース設計と地続きです。Appleのイメージングチームによれば、重要なのは撮影者と鑑賞者の双方にとって「違和感のない記憶色」を安定して提供することです。暖色寄りの肌色、動画と静止画で一貫した色調、レンズ切り替え時の破綻のなさは、SNSや業務用途での再現性を最優先した結果です。

一方、Galaxy S26 Ultraは真逆のアプローチを取ります。Samsungは大型センサーや高倍率光学ズームといった物理性能を前面に押し出し、彩度とシャープネスを強調します。TechRadarやDxOMarkの評価でも、Galaxyは「一目で映える」写真が高く評価されています。これは写真を記録ではなく、即座に共有されるコンテンツとして捉える思想の表れです。

機種 重視する価値 写真の方向性
iPhone 17 Pro 一貫性と信頼性 誰が見ても自然
Galaxy S26 Ultra 物理性能と派手さ SNS映え重視
Pixel 10 Pro AIによる解釈 シーンの再構築

Pixel 10 Proの思想は、この二者とは明確に異なります。Google Researchの論文が示す通り、Pixelは写真を「光の記録」ではなく「状況理解の結果」と定義しています。Gemini NanoがRAW段階で被写体の意味を解析し、肌、空、建物といった要素ごとに最適化する処理は、もはや人間の後処理判断を内包しています。

この結果、Pixelの写真は必ずしも万人受けしません。Pro Res Zoomで生成されるディテールや、Night Sightで強調されるコントラストは、事実の忠実な再現というより「こう見えたはずだ」というGoogleの解釈です。C2PA対応による真正性担保が必要になるのも、この思想が現実を再構成している自覚の裏返しと言えます。

同じ被写体でも、iPhoneは安心感、Galaxyは高揚感、Pixelは物語性を写そうとします。

どれが正解という話ではありません。ただ、シャッターを押した瞬間に何を期待するかで、最適解は変わります。失敗しない記録か、映える表現か、それともAIが描くもう一つの真実か。この思想の違いこそが、3機種を分ける最大のポイントです。

AIが介入する写真をどう受け止めるべきか

AIが深く介入する写真をどう受け止めるべきかは、Pixel 10シリーズを語るうえで避けて通れないテーマです。Gemini NanoがRAW段階から関与し、写っていない情報まで補完する現在、写真は単なる記録ではなく「解釈された結果」になりつつあります。この変化を不安と感じるか、進化と捉えるかで評価は大きく分かれます。

Googleの研究チームやHDR+の基礎を築いた論文によれば、人間が「自然だ」と感じる写真は、必ずしも物理的に正確な光の再現ではありません。脳内で補正された記憶色やコントラストに近い表現こそが、体験としての真実に近いとされています。Pixel 10の色再現やトーン調整は、この認知科学的アプローチに基づいて設計されています。

一方で、生成AIによるディテール補完には明確な線引きも必要です。特にPro Res Zoomのように、文字や模様を再生成する処理は、利便性と引き換えに証拠性を弱める可能性があります。DxOMarkや海外レビューでも、ズーム性能の高さと同時に「事実性の扱いは用途次第」と指摘されています。

観点 従来の写真 AI介入後の写真
役割 光景の記録 体験の再構築
正確性 物理的事実重視 認知的自然さ重視
リスク 失敗写真 過剰補完

重要なのは、AI写真を無条件に信じるか否定するかではありません。SNS共有や思い出の保存ではAI補正は強力な味方になりますが、報道性や証拠性が求められる場面では、C2PA対応の来歴情報を確認するなど、使い分ける視点が求められます。

写真を見る目をアップデートすることが、AI時代の最適解です。Pixel 10はその訓練をユーザーに促すデバイスであり、AIが介入している事実を理解したうえで使うことで、写真体験はより豊かで主体的なものになります。

参考文献