タブレットを選ぶとき、「イヤホンジャックはまだ必要なのか?」と一度は悩んだことがあるのではないでしょうか。近年のハイエンドモデルでは当たり前のように姿を消し、一方で国内向けや教育用途では根強く残り続けています。なぜ同じタブレットなのに、ここまで対応が分かれるのでしょうか。

2026年現在、Bluetooth LE Audioや低遅延コーデックの進化により、ワイヤレスオーディオの使い勝手は飛躍的に向上しています。動画視聴や日常利用では、有線とほぼ変わらない体験が可能になりました。しかしその一方で、ゲーム、教育、防災、クリエイティブ用途といった分野では、今なお3.5mmイヤホンジャックが重要な役割を果たしています。

本記事では、最新タブレット市場の構造変化、メーカーの設計思想、無線技術の到達点、そして実際のユーザー利用シーンを横断的に整理します。イヤホンジャックが「不要になった人」と「絶対に必要な人」の違いを明確にしながら、あなたにとって最適なタブレット選びの判断軸を提示します。スペック表だけでは見えない本質を、一緒に読み解いていきましょう。

イヤホンジャック廃止が進んだ背景と10年の変化

イヤホンジャック廃止の流れが本格的に始まった転換点は、2016年にAppleがiPhone 7で3.5mm端子を取り除いた出来事にあります。当時は利便性を損なう改悪だという批判が噴出しましたが、結果的にこの判断が業界全体の設計思想を大きく変えました。**防水性能の向上、筐体の薄型化、内部スペースの再配分**といった工学的合理性が明確だったためです。

実際、Appleのハードウェア設計責任者は当時、内部インタビューで「限られた体積をどこに使うかが体験の質を左右する」と語っています。イヤホンジャックは単なる穴ではなく、奥行きや補強構造、ノイズ対策を含めると想像以上にスペースを消費します。その空間をバッテリーやスピーカー、触覚フィードバック機構に割り当てる判断は、スマートデバイスの進化と整合的でした。

この動きはスマートフォンからタブレットへと波及します。2018年以降、SamsungやHuaweiなどのハイエンドモデルでは、薄型化と防水防塵性能を優先する設計が主流となりました。**特にタブレットでは大画面化と軽量化を両立させるため、内部レイアウトの自由度が重要視**され、イヤホンジャックは真っ先に見直される部品となりました。

年代 主な動き ユーザー体験への影響
2016〜2018年 スマートフォンで廃止が始まる 変換アダプタ必須、反発が強い
2019〜2022年 ワイヤレスイヤホン普及 利便性が評価され始める
2023〜2026年 タブレットのハイエンドで定着 廃止が前提の設計に慣れる

この10年で状況を大きく変えたのが、Bluetoothオーディオの成熟です。Bluetooth SIGが策定したLE AudioやLC3コーデックにより、音質と遅延は飛躍的に改善しました。国際的な技術レビューでも、動画視聴や一般的なゲーム用途では有線との差を知覚しにくいレベルに到達したと評価されています。**ワイヤレスが「妥協案」から「標準」へと昇格したこと**が、イヤホンジャック廃止を後押ししました。

同時に、メーカー側のビジネス戦略も無視できません。完全ワイヤレスイヤホンは利益率が高く、タブレットやスマートフォンと組み合わせたエコシステム構築に適しています。市場分析を行う調査会社IDCも、ハード単体より周辺機器を含めた体験価値の最大化が収益の鍵だと指摘しています。イヤホンジャックの廃止は、その導線を強化する役割を果たしました。

こうして振り返ると、イヤホンジャック廃止は一企業の挑戦的な判断ではなく、**技術進化、設計合理性、そして市場構造の変化が重なった結果として10年かけて定着した流れ**だと分かります。現在では賛否そのものが落ち着き、ユーザーも用途に応じて選ぶ段階へと移行しています。

ハイエンドタブレットがジャックを捨てる技術的理由

ハイエンドタブレットがジャックを捨てる技術的理由 のイメージ

ハイエンドタブレットから3.5mmイヤホンジャックが姿を消している最大の理由は、単なるトレンドではなく、極めて現実的な技術的制約にあります。**薄型化・高性能化・防水性の同時実現**という、現代タブレットに課せられた要求水準が、物理的なアナログ端子と根本的に相容れなくなっているのです。

例えば2026年のフラッグシップ機であるSamsung Galaxy Tab S10 Ultraは、筐体厚5mm台という極限的な設計が採用されています。直径3.5mmのプラグを受け止めるイヤホンジャックは、内部に約10mm以上の奥行きスペースを必要とし、さらに基板上の回路、ノイズ対策用シールド、防水用シーリング構造まで含めると、設計上の負担は想像以上に大きくなります。**薄さを1mm削るために、複数の機能を天秤にかけるのがハイエンド設計の現実**です。

要素 イヤホンジャックあり イヤホンジャックなし
内部スペース 大きく占有される 他部品に再配分可能
防水設計 複雑・コスト増 高い気密性を確保しやすい
音響設計の自由度 制約が多い スピーカー性能を強化しやすい

実際、Samsungはイヤホンジャックを廃したことで生まれた空間を、大容量バッテリーやベイパーチャンバー式冷却機構、そしてクアッドスピーカー用の音響チャンバーに割り当てています。音響工学の観点では、筐体内部の空気室を大きく確保できるほど低音再生は有利になります。**物理的な「穴」を塞ぐこと自体が、スピーカー音質を底上げする技術的メリット**になっている点は見逃せません。

さらに、防水・防塵性能の高度化も大きな要因です。IP68等級を安定して実現するためには、開口部は少ないほど有利になります。アナログジャックはゴムパッキンや防水膜で対策できるものの、経年劣化や個体差によるリスクを完全に排除することは困難です。AppleやSamsungのエンジニアリング思想では、**長期的な耐久性と品質のばらつきを減らすため、そもそも物理端子を持たない設計が合理的**と判断されています。

加えて、オーディオ信号処理のデジタル化も決定打となりました。現在のハイエンドSoCは高性能なDSPを内蔵し、USB-C経由やBluetooth経由でのデジタル出力を前提に設計されています。Qualcommが提示するSnapdragon Soundのリファレンス設計でも、アナログ出力は必須要件ではありません。**メーカーにとって、3.5mmジャックは“省いても性能が下がらない部品”になりつつある**のです。

XiaomiやOPPOが進めるエコシステム戦略も、この技術的判断を後押ししています。USB-Cとワイヤレスに統一することで、OSレベルでの音質制御や遅延最適化、デバイス間連携をソフトウェア主導で実装しやすくなります。ハードウェアの自由度を犠牲にしてでも、体験全体を最適化するという発想は、GoogleやAppleの設計哲学とも共通しています。

このように、ハイエンドタブレットがイヤホンジャックを捨てた背景には、**薄型化、防水性、音響性能、デジタル最適化という複数の技術要請が一点に収束した結果**があります。これはユーザー軽視ではなく、現代の工学的制約の中で導き出された、極めて合理的な選択だと言えるでしょう。

USB-Cオーディオという代替手段の現実

イヤホンジャックが廃止されたタブレットにおいて、有線オーディオの受け皿となっているのがUSB-Cオーディオです。メーカー各社は「有線接続はUSB-Cで代替可能」と説明しますが、実際のユーザー体験はそれほど単純ではありません。**USB-Cは万能端子である一方、オーディオ用途では仕様の違いが見えにくく、混乱を招きやすい**という現実があります。

USB-Cオーディオには大きく分けて二つの方式が存在します。一つは端末側でD/A変換を行い、アナログ信号を出力する方式、もう一つはデジタル信号のみを出力し、変換をアダプタ側に委ねる方式です。USB Implementers Forumが定めた仕様上は両立可能ですが、2026年時点のハイエンドタブレットでは後者のみを採用するケースが増えています。結果として、**DAC非搭載の安価な変換ケーブルでは音が出ない**というトラブルが頻発しています。

項目 アナログ出力対応 デジタル出力のみ
必要なアダプタ 単純な変換ケーブル DAC内蔵アダプタ
対応端末(2026年) 一部旧世代モデル 最新ハイエンドの主流
ユーザーの注意点 互換性の確認が必須 品質差が音質に直結

家電メーカーや修理事業者への取材によれば、USB-Cオーディオ関連の相談で最も多いのは「形状は合うのに使えない」というケースです。特に量販店や通販で数百円で販売されている変換ケーブルの多くはアナログパススルー型であり、デジタル出力専用のタブレットでは機能しません。**これは規格違反ではなく、ユーザー側が仕様を理解していないことに起因する問題**であり、USB-Cの分かりにくさを象徴しています。

さらに見落とされがちなのが物理的な負荷です。変換アダプタを介すると、コネクタ部分が筐体から突き出した状態になります。修理業界の報告では、バッグの中や膝上使用時にこの突出部へ力が加わり、USB-Cポートが破損する事例が増加しています。USB-Cポートは充電や映像出力も担う中枢であり、**ここが損傷すると基板交換レベルの高額修理につながる**点は、3.5mmジャック時代にはなかったリスクです。

一方で、USB-Cオーディオが評価される側面もあります。Astell&KernやFiiOといった老舗オーディオブランドの外付けDACを用いれば、内蔵ジャックを大きく上回る音質が得られます。オーディオ専門店のレビューでも、32bit/384kHz再生やDSD対応といった高度な仕様はタブレット単体では実現できないとされています。**USB-Cは「誰でも簡単」ではない代わりに、「投資すれば青天井」という性格を持つ**のです。

総じて、USB-Cオーディオは技術的には完成度が高いものの、知識と選択をユーザーに強く要求します。挿せば確実に音が出た3.5mmジャックと比べると、手軽さや安心感では明確に劣ります。USB-Cは代替手段として成立しているものの、それはあくまで条件付きであり、**万人向けの置き換えとは言い切れない**のが現実です。

国内メーカーとミッドレンジ市場がジャックを守る理由

国内メーカーとミッドレンジ市場がジャックを守る理由 のイメージ

国内メーカーとミッドレンジ市場がイヤホンジャックを守り続ける背景には、単なる保守性ではなく、**日本特有の利用環境と購買行動を正確に捉えた合理的な判断**があります。グローバルではハイエンドのワイヤレス化が進む一方、日本市場では「失敗しない安心感」が依然として重視されているのが実情です。

象徴的な事例が、NECパーソナルコンピュータのLAVIE Tabシリーズです。2025年モデルのLAVIE Tab T11は、厚さ7mm台の筐体に3.5mmイヤホンジャックを残しました。NECによれば、国内ユーザーの多くはタブレットを家族共用やリビング用途で使っており、**Bluetoothの接続設定や充電管理を煩雑に感じる層が一定数存在**します。挿せば確実に音が出るという即時性は、スペック表では測れないUXの価値として評価されています。

この傾向は、価格帯にもはっきり表れています。ミッドレンジは初めてタブレットを購入する層や、買い替え時に失敗したくない層が中心で、周辺機器の追加購入を前提としない設計が好まれます。市場調査でも、国内の量販店バイヤーは「変換アダプタが必要な端末はクレーム率が上がる」と指摘しています。

観点 ハイエンド志向 国内ミッドレンジ志向
主な利用シーン 個人利用・外出先 家庭・教育・共有
オーディオ前提 完全ワイヤレス 有線イヤホン併用
トラブル許容度 高い 低い

特に教育市場の影響は無視できません。文部科学省のGIGAスクール構想Nextでは、音声学習やリスニング教材の活用が前提となっており、**充電不要で混線しない有線イヤホンの運用効率が現場で高く評価**されています。教育委員会の調達仕様書でも、3.5mm端子の搭載が推奨または事実上の必須条件となるケースが多く、国内メーカーはこの需要を確実に取り込んでいます。

また、日本は災害大国でもあります。総務省や防災研究の指摘でも、通信障害時にFMラジオが有効な情報源となることが繰り返し示されています。多くの端末でFMラジオは有線イヤホンをアンテナとして使う設計のため、**イヤホンジャックの有無が防災性能を左右する**という側面もあります。この点は京セラなど耐久性を重視する国内メーカーが強調しているポイントです。

国内メーカーにとってイヤホンジャックは、コスト削減の対象ではなく差別化の武器です。ワイヤレス全盛の時代だからこそ、「誰でも迷わず使える」「現場で確実に動く」ことが価値になります。ミッドレンジ市場がジャックを守り続ける理由は、技術的な遅れではなく、日本市場に最適化された進化の形だと言えるでしょう。

教育現場で有線イヤホンが求められ続ける事情

教育現場で有線イヤホンが求められ続ける最大の理由は、「授業を止めない確実性」にあります。GIGAスクール構想の普及によって一人一台端末が当たり前になった現在、音声教材や動画コンテンツは日常的に使われています。その中で、音が出ない、つながらないといったトラブルは、学習そのものを中断させてしまいます。

特に小中学校では、Bluetoothイヤホンの運用が想定以上に難しいという現場の声が多く聞かれます。文部科学省や各自治体の調達資料でも、音声入出力の安定性は学習効果に直結する要素として重視されています。これはICT活用が進むほど、裏側の運用負荷が問題として顕在化しているためです。

現場で指摘されやすいのが、充電と接続管理です。40人規模の学級で、全員分のワイヤレスイヤホンの充電状況を毎時間確認するのは現実的ではありません。バッテリー切れによる音声未再生は、教師が個別対応を迫られる原因となり、授業進行に直接影響します。

観点 有線イヤホン ワイヤレスイヤホン
授業準備 挿すだけで即使用可能 充電・ペアリング確認が必要
教室内の安定性 混線や誤接続が起きない 電波干渉のリスクあり
管理コスト 安価で一括調達しやすい 紛失・故障時の負担が大きい

Bluetoothは2.4GHz帯を使用するため、端末が密集する教室では干渉が起こりやすいことも知られています。教育工学の分野でも、同時接続数が増えるほど接続の不安定さが増す点は以前から指摘されており、実際に隣の児童の端末へ誤接続してしまう事例も報告されています。

また、紛失リスクも無視できません。完全ワイヤレスイヤホンは構造上サイズが小さく、児童生徒に長期間管理させるには不向きです。自治体関係者のコメントでも、消耗品として扱える有線イヤホンの方が、結果的にコストと手間を抑えられるという見解が示されています。

USB-C変換アダプタで代替する案もありますが、アダプタ自体の紛失や、コネクタ破損のリスクが新たに生まれます。特に低学年では扱いが雑になりがちで、端末本体の修理費用増加につながる可能性があります。

その点、筐体に内蔵された3.5mmジャックは堅牢で、扱い方を細かく指導せずとも安定して使えます。教育現場における有線イヤホンは、音質や新しさではなく、運用の単純さと信頼性が評価されていると言えるでしょう。技術が進化しても、学びの場では「確実に動くこと」が最優先され続けています。

Bluetooth LE Audioは有線にどこまで近づいたのか

Bluetooth LE Audioは、2026年時点で「有線にどこまで近づいたのか」という問いに対し、用途によっては明確にイエスと答えられる段階に入っています。中核となるのが標準コーデックLC3です。Bluetooth SIGの技術資料によれば、LC3は従来のSBCと比べ、同じ音質を約半分のビットレートで実現でき、エンコード・デコード処理も高速化されています。

その結果、Android 15以降を搭載した最新タブレットと対応イヤホンの組み合わせでは、実測で20〜30ms前後の低遅延が報告されています。SonyのWH-1000XM6を用いた検証では、LE Audio接続時の遅延が人間の知覚限界に近い水準まで縮まったとされ、動画視聴や一般的なゲームでは有線との差を意識する場面はほぼありません。

特に大きいのは音質劣化の印象が薄れた点です。LC3は高域の破綻や音のにじみが少なく、AAC接続で感じられがちだった圧縮感が大幅に改善されています。実際、欧州放送連合の技術レビューでも、同一条件下での主観評価においてLC3はSBCを一貫して上回る結果が示されています。

項目 有線3.5mm Bluetooth LE Audio
音声遅延 ほぼ0ms 約20〜30ms
音質傾向 ロスレス 高効率圧縮だが劣化は小さい
安定性 非常に高い 電波環境に依存

一方で、有線との差が完全に消えたわけではありません。リズムゲームや音楽制作のように、16ms単位の精度が要求される領域では、30ms前後の遅延でも体感できるズレになります。アプリ側の補正で映像と音は合わせられても、タップ音や演奏音のフィードバック遅延までは解消できないため、この点では有線が依然として基準です。

それでもBluetooth LE Audioは、「日常利用のほぼすべて」において有線と同等の快適さを提供できる水準に到達しました。ケーブルの取り回しや断線リスクから解放されつつ、音質と遅延の妥協がほぼ不要になったという意味で、無線オーディオは初めて有線の実用領域に肩を並べたと言えます。

ゲーマー視点で見る遅延と操作精度の壁

ゲーマー視点でタブレットのオーディオ環境を見たとき、最大の論点は音質よりも遅延と操作精度の一致です。映像がどれだけ滑らかでも、操作に対する音の返りがズレた瞬間、プレイ感覚は一気に崩れます。特に競技性の高いジャンルでは、この違和感がそのまま勝敗に直結します。

Bluetooth LE AudioやLC3コーデックの登場により、2026年時点のワイヤレス遅延は大きく改善しています。QualcommのSnapdragon Soundや、Sonyの対応ヘッドホンを用いた検証では、20〜30ms台まで短縮できるケースが報告されています。Audio Engineering Societyなどの知見によれば、人間が音のズレを知覚し始める境界はおおよそ20ms前後とされています。

しかし、この数値が意味を持たなくなるのがリズムゲームです。1フレーム約16.6msという世界でタップ精度を競う音ゲーでは、30msの遅延は理論上2フレーム弱のズレに相当します。判定調整機能で視覚的なズレは補正できても、タップ音や効果音のフィードバック遅延は残り、プレイヤーのリズム感覚を確実に狂わせます。

接続方式 実測遅延の目安 ゲーマー評価
3.5mm有線 ほぼ0ms 基準・理想
Bluetooth LE Audio 20〜30ms カジュアル向け
2.4GHzドングル 10ms前後 妥協点

FPSでも事情は似ています。足音の方向や距離感を頼りに敵位置を判断する場面では、圧縮や遅延によるわずかな定位の甘さが致命傷になります。eスポーツ分野のオーディオ研究でも、有線接続の方が空間認識の一貫性が高いとされており、プロや上位層ほど有線を選び続ける理由がここにあります。

この壁を越えるために登場したのがUSB-Cドングル型の低遅延ワイヤレスですが、結局はポート占有や充電との排他利用という別の制約を生みました。結果として、最もシンプルで確実に操作精度を担保できる手段が3.5mmジャックであるという評価は、2026年になっても揺らいでいません。

スペック表では見えにくいこの差は、実際にプレイした瞬間に体で理解できます。ゲーマーにとってイヤホンジャックの有無は、懐古趣味ではなく、今なお現役の競技インフラなのです。

防災・FMラジオ用途から見たイヤホンジャックの価値

防災の観点から見ると、イヤホンジャックは単なる音声出力端子ではなく、情報取得の信頼性を左右する重要なインフラとしての価値を持っています。特に日本では、地震や豪雨などの自然災害時に通信網が寸断されるケースが繰り返し発生しており、そのたびにFMラジオの有用性が再認識されています。

総務省や防災関連の専門家によれば、災害直後は携帯電話回線やインターネットよりも、放送インフラの方が早期に復旧しやすく、地域密着の情報を得る手段としてFM放送は極めて有効とされています。多くのAndroidタブレットやスマートフォンに搭載されているFMラジオ機能は、有線イヤホンのケーブルをアンテナとして利用する設計であり、ここでイヤホンジャックの有無が決定的な差を生みます。

項目 イヤホンジャックあり USB-C・ワイヤレスのみ
FMラジオ受信感度 安定しやすい 不安定・非対応例あり
追加機器の必要性 不要 変換アダプタ等が必要
停電時の実用性 高い 低下しやすい

実際、過去の大規模地震においては、USB-Cイヤホンや変換アダプタではFMラジオが起動しない、あるいは受信感度が著しく低下する事例が報告されています。これはデジタル接続ではアンテナとして認識されない設計が多いためで、仕様上の制約でありユーザー側では回避が難しい問題です。

一方、イヤホンジャックを備えた端末であれば、市販の安価な有線イヤホンを挿すだけで即座に受信環境が整います。バッテリー消費も最小限に抑えられ、Bluetoothイヤホンのように事前充電を気にする必要もありません。防災リュックに入れておく端末として考えた場合、準備不要で確実に機能することは何よりも優先される条件です。

防災用途では「高音質」や「利便性」よりも、「確実に音声情報を受け取れるか」が最重要評価軸になります。

京セラなどが展開する高耐久・業務向け端末がイヤホンジャックを維持しているのも、この文脈と無関係ではありません。カタログスペックには現れにくいものの、非常時におけるFMラジオ受信という一点において、イヤホンジャックは今なお代替の効かない価値を持ち続けています。

メーカーの収益構造とエコシステム戦略

タブレットから3.5mmオーディオジャックを廃止する判断は、単なる設計上のトレンドではなく、メーカーの収益構造とエコシステム戦略を色濃く反映しています。2026年現在、ハードウェア単体での利益率は成熟市場ゆえに伸び悩んでおり、各社は周辺機器やサービスを含めた総合的な収益最大化へと舵を切っています。

特に象徴的なのが、完全ワイヤレスイヤホン(TWS)を中核に据えたクロスセル戦略です。AppleがAirPodsを軸に築いた高収益モデルは、業界全体の教科書となりました。SamsungはGalaxy Buds、OPPOはEncoシリーズ、XiaomiもRedmi Budsを展開し、タブレット本体ではなくオーディオ周辺機器で利益を確保する構造を強化しています。

要素 タブレット本体 TWS・周辺機器
平均利益率 低〜中
価格競争 激しい 比較的緩やか
買い替え頻度 3〜5年 2〜3年

イヤホンジャックを廃止することで、有線イヤホンという汎用的かつ低価格な選択肢を排除し、ユーザーを自社製TWSへと自然に誘導できます。これは強制力を伴う設計ですが、メーカー側から見れば平均顧客単価(ARPU)を引き上げる極めて合理的な手法です。

さらに重要なのが、エコシステム全体でのロックイン効果です。XiaomiのHyperOSやSamsungのOne UIは、タブレット、スマートフォン、イヤホン、ウェアラブル間のシームレスな連携を強調しています。ケースを開くだけで接続され、空間オーディオや低遅延モードが自動適用される体験は、単体ではなく「セット」で使う価値を訴求します。

イヤホンジャックの廃止は、ハードウェア削減ではなく、ソフトウェアと周辺機器を含めた体験価値の囲い込みを目的とした戦略です。

米国の市場調査会社IDCによれば、個人向けデバイス市場では「初回購入時の利益」よりも「購入後2〜3年にわたる周辺機器とサービス収益」が重視される傾向が強まっています。TWSはバッテリー劣化による買い替え需要も見込めるため、メーカーにとって継続収益を生む理想的なプロダクトです。

一方で、この戦略はすべての市場に適合するわけではありません。教育機関や法人向けでは、周辺機器の買い替えコストや管理負担が嫌われ、エコシステムよりも汎用性が重視されます。その結果、BtoC向けハイエンドモデルと、BtoB・国内ミッドレンジモデルで設計思想が分かれる二層構造が生まれています。

つまり、イヤホンジャックの有無は技術的優劣ではなく、どの顧客層から、どのように収益を得るかというメーカーの意思表示に他なりません。エコシステムに深く浸るユーザーにとっては利便性の向上ですが、汎用性を重視する層には割り切りを迫る選択となっています。

環境負荷とサステナビリティの観点で考える有線と無線

環境負荷とサステナビリティの観点で有線と無線を比較すると、利便性とは異なる評価軸が浮かび上がります。近年、完全ワイヤレスイヤホンの普及は目覚ましい一方で、その環境影響については十分に語られてきたとは言えません。**実は「ケーブルが無い=環境にやさしい」とは必ずしも言い切れない**のが現実です。

まず注目すべきは製品寿命です。有線イヤホンは構造が単純で、断線さえしなければ5年、10年と使い続けられる例も珍しくありません。一方、無線イヤホンは内部に超小型のリチウムイオンバッテリーを内蔵しており、充放電を繰り返すことで2〜3年程度で実用寿命を迎えるケースが一般的です。国際エネルギー機関やEUの循環型経済に関する報告でも、**小型電子機器に内蔵された交換困難な電池がE-waste増加の一因**として繰り返し指摘されています。

タブレット側の設計も環境負荷に影響します。3.5mm端子があれば、ユーザーは既存の有線イヤホンを継続利用できますが、端子が無い場合は変換アダプタや無線イヤホンの追加購入が前提になります。結果として、使われなくなったアクセサリーが増え、資源投入量と廃棄物の両方が増加します。欧州委員会が推進する「修理する権利」政策では、**長期間使用できるインターフェースの維持が製品全体の環境負荷低減につながる**と整理されています。

観点 有線イヤホン 無線イヤホン
想定寿命 長い(構造が単純) 短め(電池劣化)
バッテリー 不要 内蔵・交換困難
E-wasteへの影響 比較的小さい 増加しやすい
既存資産の活用 可能 新規購入が前提

メーカーはしばしば「ポート削減による省資源化」を訴求しますが、その一方で寿命の短い無線周辺機器への移行を促している点には矛盾も残ります。環境配慮を重視するユーザーにとって重要なのは最新規格かどうかではなく、**どれだけ長く、無駄なく使い続けられるか**という視点です。

サステナビリティを本気で考えるなら、無線か有線かの二択ではなく、既存資産を活かせる選択肢を残す設計こそが合理的だと言えます。イヤホンジャックの存在は、利便性だけでなく、循環型社会におけるデバイス設計の姿勢を映す小さな指標でもあります。

参考文献