スマートフォンで遠くの被写体をここまで鮮明に撮れる時代が来たことに、驚きを感じている方も多いのではないでしょうか。特にGalaxy Ultraシリーズの望遠性能は、鉄道写真やコンサート撮影、夜景や月の撮影など、日本の撮影文化と深く結びつきながら進化してきました。

一方で、「ズームするとブレる」「手持ちでは限界がある」「AI補正は本当に信用できるのか」といった疑問や不満を感じた経験がある方も少なくないはずです。高倍率ズームは魅力的ですが、そこには必ず物理的な制約が存在します。

本記事では、Galaxy S24 Ultraおよび最新のS25 Ultraを軸に、望遠手持ち撮影の限界がどこにあるのかを、センサーサイズやF値といった物理の視点から丁寧に整理します。さらに、OISやAI超解像がどのようにその限界を押し広げているのかも具体的に解説します。

単なるスペック比較ではなく、「なぜこの設計なのか」「実際の撮影で何が起きているのか」を理解することで、Galaxy Ultraのカメラはもっと頼れる存在になります。望遠撮影を本気で使いこなしたい方にこそ、最後まで読んでいただきたい内容です。

スマートフォン望遠撮影が直面する物理的な限界

スマートフォンの望遠撮影が直面する最大の壁は、技術力以前に光学と人体に起因する物理法則です。どれほどAIや画像処理が進化しても、レンズを通ってセンサーに届く光の量、そして人間が手持ちで構えるという前提条件は覆せません。特に望遠域では、わずかな不足や揺らぎが画質に致命的な影響を与えます。

まず決定的なのが、光量の問題です。望遠レンズは構造上どうしても暗くなりやすく、F値が大きくなります。F値が1段暗くなると、同じ明るさを得るためにはシャッター速度を半分に落とすか、ISO感度を2倍に上げる必要があります。どちらも画質劣化やブレのリスクを高める要因です。東京大学やMITでの画像工学研究でも、S/N比は入力光子数に強く依存すると示されており、ソフトウェア処理ではこの初期条件を完全には補えないとされています。

この関係を整理すると、望遠撮影がいかに不利な条件で成り立っているかが見えてきます。

要素 望遠域で起きること 画質への影響
F値 暗くなりやすい シャッター低速化やノイズ増加
センサーサイズ 物理的制約で小型 受光量不足、階調低下
焦点距離 長くなる 手ブレが拡大して写る

次に無視できないのが手ブレです。換算100mmを超える望遠では、角度にして0.1度にも満たない揺れが、画面上では被写体の大きな移動として現れます。カメラ映像機器工業会が定めるCIPA基準でも、焦点距離が長くなるほど必要なシャッター速度は指数関数的に速くなるとされています。つまり、望遠になるほど「止める」こと自体が難しくなるのです。

さらに問題を複雑にするのが、スマートフォン特有の軽さです。一眼カメラと異なり、質量が小さい端末は慣性が弱く、筋肉の微細な震えや呼吸、心拍の影響を受けやすい傾向があります。これはソニーやキヤノンのエンジニアもインタビューで指摘している点で、OISが進化しても人体由来の低周波振動を完全に打ち消すのは困難だとされています。

そして最後に、回折限界という光学的な天井があります。レンズを小型化すると、絞り開放でも回折の影響が無視できなくなり、理論上の解像度自体が制限されます。これはAIがディテールを補完できても、本来存在しない情報を正確に復元できない理由でもあります。望遠撮影とは、光量・揺れ・回折という三重の制約の上に成り立つ極めてシビアな行為であり、ここにこそスマートフォン望遠の本質的な限界があります。

なぜGalaxyは10倍から5倍光学ズームへ舵を切ったのか

なぜGalaxyは10倍から5倍光学ズームへ舵を切ったのか のイメージ

Galaxyが長年の象徴でもあった10倍光学ズームから5倍光学ズームへ舵を切った背景には、マーケティング上の判断ではなく、**手持ち撮影という現実条件を突き詰めた結果としての必然**があります。

結論から言えば、Samsungは「遠くを撮れること」よりも、「誰でも失敗せずに撮れること」を優先したのです。

この判断を理解する鍵は、望遠撮影における光量とシャッター速度の関係にあります。

項目 10倍光学ズーム 5倍光学ズーム
F値 f/4.9 f/3.4
センサーサイズ 約1/3.52インチ 約1/2.52インチ
シャッター速度 遅くなりやすい 速く切れる

Galaxy S23 Ultraまで搭載されていた10倍光学ズームは、換算230mm相当という圧倒的なリーチを誇っていましたが、その代償としてレンズは非常に暗く、センサーも小型でした。

F4.9という数値は一眼カメラの世界でも暗い部類に入り、**夕方や屋内ではシャッター速度を稼げず、手ブレや被写体ブレが頻発する**という弱点を抱えていました。

これに対し、S24 Ultra以降の5倍望遠はF3.4まで明るさを改善しています。

写真工学的には約1段分の差があり、同じISO感度ならシャッター速度を約2倍速くできます。

例えば、10倍で1/60秒が限界だったシーンでも、5倍なら1/125秒で撮影できる可能性があり、これは歩行者やステージ上の人物を止められるかどうかの分岐点です。

**Samsungが重視したのは「理論上の解像度」ではなく、「実環境での成功率」でした。**

さらに重要なのが、5倍望遠に5000万画素の高画素センサーを組み合わせた点です。

10倍撮影時にはセンサー中央部をクロップしますが、十分な光量を確保した状態でのクロップは、暗い10倍レンズよりもノイズが少なく、結果としてディテールが残りやすいのです。

DXOMARKのテストや海外レビューでも、S24 Ultra以降は「数字上の倍率は下がったが、実用画質は向上した」と評価されています。

これは計算写真学による超解像処理が、物理的に健全な入力データを前提として初めて効果を発揮することを示しています。

日本市場特有の撮影文化も、この判断を後押ししました。

鉄道写真やコンサート撮影のように、三脚禁止かつ手持ち必須の環境では、10倍光学ズームは理想よりも失敗体験を生みやすかったのです。

Samsung関係者の発言や公式技術資料でも、「日常シーンでの歩留まり向上」が繰り返し強調されています。

つまり、Galaxyが10倍から5倍へ移行したのは後退ではありません。

**スマートフォンという制約の中で、物理法則と真剣に向き合った結果としての進化**だったと言えるでしょう。

F値とセンサーサイズが手持ち撮影成功率を左右する理由

手持ち撮影の成功率を最も左右する要素は、ズーム倍率やAI処理以前に、レンズのF値とセンサーサイズが生み出す物理的な余裕です。特に望遠域では、わずかな光量差がシャッター速度に直結し、結果としてブレるか止まるかを決定づけます。

F値とはレンズの明るさを示す指標で、数値が小さいほど多くの光を取り込めます。Galaxy Ultraシリーズでは、従来の10倍望遠がf/4.9だったのに対し、5倍望遠はf/3.4へと大きく改善されています。これは理論上およそ1段分の差に相当し、**同じISO感度ならシャッター速度を約2倍速くできる**計算になります。

項目 f/4.9 10倍望遠 f/3.4 5倍望遠
取り込める光量 少ない 多い
必要なシャッター速度 遅くなりやすい 速くしやすい
手ブレ・被写体ブレ耐性 低い 高い

実写の世界では、この差は極めて現実的です。例えば夕方の屋外やドーム級の会場では、1/60秒と1/125秒の違いが、歩く人や動く被写体を止められるかどうかの分水嶺になります。カメラ工学の教科書やCIPAの撮影ガイドラインでも、焦点距離が長くなるほど高速シャッターが必要になることは繰り返し指摘されています。

もう一つ重要なのがセンサーサイズです。Galaxy S24/S25 Ultraの5倍望遠は1/2.52インチの50MPセンサーを採用し、旧世代の10倍望遠に比べて受光面積が大きくなっています。センサーが大きいほど、同じ画角でも多くのフォトンを集められるため、**S/N比が向上し、ノイズを抑えつつ速いシャッターを選びやすくなります**。

一見すると高画素化は不利に見えますが、ここで効いてくるのがクロップ前提の設計です。十分な光量を確保した状態でセンサー中央部を切り出すため、暗いレンズでフルに光学10倍を使うより、結果としてディテールが残るケースが多いのです。DXOMARKなどの評価機関が指摘するように、低照度では解像力よりもまず光量確保が画質を支配します。

つまり、F値の明るさとセンサーサイズの拡大は、単なるスペック競争ではありません。**手持ちという不安定な条件下で、失敗写真を減らすための確率論的な最適解**です。望遠撮影を日常的に行うユーザーほど、この2つの数値が撮影体験を根本から変えていることを実感しやすいはずです。

50MPセンサーとクロップズームの現実的な画質評価

50MPセンサーとクロップズームの現実的な画質評価 のイメージ

Galaxy Ultraシリーズにおける50MPセンサーの採用は、単なる高解像度化ではなく、クロップズームを前提とした実用画質の最適化という明確な思想に基づいています。従来の10MPセンサーで10倍光学を担っていた世代と比べ、S24 Ultra以降の5倍・50MP構成は「どこまで切り出しても破綻しにくい」耐性を重視しています。

50MPセンサーの最大の利点は、10倍相当で約12MP前後を確保できる点にあります。これは一般的なSNS投稿やA4印刷にも十分な解像度で、DXOMARKのテストでもS24 Ultraの10倍クロップ画像は、細部の再現性とノイズ抑制のバランスが良好だと評価されています。**画素数を余らせる設計が、結果的に画質の安定性を高めています。**

項目 10倍光学(旧世代) 5倍50MP+クロップ
有効解像度(10倍相当) 約10MP 約12MP
F値 f/4.9 f/3.4
手持ち成功率 低〜中 中〜高

特に重要なのが、クロップズーム時でもレンズの明るさを維持できる点です。F3.4という数値は、F4.9と比較して約1EV分多くの光を取り込めます。これによりISO感度を抑えたままシャッター速度を上げられ、結果としてノイズ低減処理に頼りすぎない画像生成が可能になります。**暗所でのクロップズームほど、この差は如実に現れます。**

一方で、万能ではありません。50MPセンサーは画素ピッチが0.7µmと小さく、十分な光量がない状況で20倍、30倍と拡大すると、AI補完の介入度が急激に高まります。Samsung自身も公式発表で「30倍以上はAIによる超解像処理が主体」と位置づけており、自然な写真というより“読める画像”を優先したチューニングです。

この挙動について、Imaging ResourceやDPReviewなどのカメラ専門メディアでも、**「50MPクロップは10倍前後までが最もバランスが良い」**と指摘されています。ディテールの信頼性、ノイズ、シャープネスの不自然さが最小限に収まるのがこの領域です。

実写シーンで考えると、スタジアム後方からのステージ撮影や、駅ホームからの編成写真など、5〜10倍を多用する用途では50MPクロップズームの恩恵は非常に大きいです。光学倍率の数字だけでは測れない「失敗しにくさ」こそが、現実的な画質評価の核心だと言えます。

OISとEISの仕組みと高倍率ズーム特有の副作用

高倍率ズームを手持ちで成立させる中核技術が、OISとEISの協調制御です。OISはレンズやプリズムを物理的に動かして光軸のズレを補正し、EISはセンサーから得た映像をソフトウェアで切り出し補正します。**Galaxy Ultraシリーズでは、この二層構造によって換算100mmを超える領域でも実用的な安定性を実現しています**。

とくに5倍ペリスコープ望遠では、画角が狭い分、わずかな手の揺れが大きなブレとして現れます。SamsungはOISの可動域拡大と高精度制御を進め、S24 Ultra以降では従来比で補正範囲が拡大したとされています。カメラ映像機器工業会のCIPA基準に照らすと、一眼レフ用レンズの3.5〜4.5段分に相当する安定感と評価されることもあり、条件が良ければ1/10秒前後のスローシャッターを手持ちで切れるケースもあります。

方式 主な役割 高倍率時の特徴
OIS 物理的に光軸を補正 微細な角度ブレに強いが、可動限界がある
EIS 映像を解析し電子的に補正 歩行時など大きな揺れに有効だが画角を犠牲にする

一方で、高倍率ズーム特有の副作用も無視できません。S24 Ultraで指摘された動画撮影時の「こんにゃく現象」や「ワーピング」は、OISとEISが同時に強く介入した際に発生します。ペリスコープ望遠はパースペクティブ変化が目立ちやすく、ローリングシャッター歪みとレンズシフトが重なることで、背景がゼリー状に揺れるような映像になりやすいのです。

さらにS25 Ultraでは、5倍望遠カメラのOISが心拍や筋肉の微振動に反応する「ハートビート」現象が一部ユーザーから報告されています。これは制御ループが特定周波数の振動と共振している可能性があり、**高精度化したOISほど設定次第で過敏になるという、制御工学的なトレードオフ**を示す事例です。Samsungもソフトウェア起因と認識しており、アップデートでの調整が予定されています。

重要なのは、これらが欠陥というより限界に近い現象だという点です。高倍率・高解像度・強力な補正を同時に成立させるほど、OISとEISの干渉リスクは高まります。**安定化の恩恵と副作用は表裏一体であり、ズーム倍率や撮影シーンに応じて最適なバランスを探ることが、Galaxy Ultraを使いこなす鍵になります**。

シャッター速度とシャッターラグが生む動体ブレ問題

望遠撮影で動体ブレが発生する最大の要因は、単純な手ブレだけではなく、シャッター速度とシャッターラグが複合的に作用する点にあります。特にGalaxy Ultraシリーズでは、高解像度センサーと高度な計算写真処理を前提とした設計思想が、この問題をより顕在化させています。

まずシャッター速度についてですが、**被写体が動いている限り、OISやAIでは被写体ブレを完全に止めることはできません**。例えば歩行者であっても、1/30秒では腕や脚に明確なブレが生じ、1/60秒でようやく実用、1/125秒以上で安定するとされています。これは写真工学の教科書的知見であり、CIPAや各種カメラメーカーのガイドラインでも共通しています。

Galaxy S24/S25 Ultraは5倍望遠でF3.4という比較的明るいレンズを採用し、理論上は高速シャッターを切りやすくなっています。しかし実際のオート撮影では、Samsungの露出アルゴリズムが「低ISO・低ノイズ」を優先するため、動体シーンでもシャッター速度が十分に上がらないケースが見られます。

撮影条件 Galaxyの傾向 動体への影響
暗所・室内 ISOを抑え1/30秒前後 被写体ブレが発生しやすい
夕暮れの屋外 1/60秒前後を選択 軽度の動きでブレ残存
明るい屋外 1/250秒以上も可能 動体ブレはほぼ解消

ここに追い打ちをかけるのがシャッターラグです。DXOMARKの評価によれば、Galaxy S24 Ultraではシャッターボタンを押してから実際に記録されるまでに、数十〜百ミリ秒規模の遅延が確認されています。これはHDR合成やマルチフレーム処理のため、シャッター前後のフレームを統合するGalaxy独自のパイプラインに起因します。

**問題は「遅れること」そのものではなく、「遅れが予測できないこと」です**。子どもやペット、ステージ上のアーティストのように動きが不規則な被写体では、撮影者が意図した瞬間と、実際に記録される瞬間がズレやすく、結果として動体ブレや決定的瞬間の取り逃しにつながります。

高速シャッターでも、シャッターラグが大きければ動体は止まらない

AppleがiPhoneで長年磨いてきたゼロシャッターラグの思想と比較すると、Galaxyは「画質を最大化する代わりに瞬間性を犠牲にする」設計だと評価できます。これは優劣ではなく思想の違いですが、日本市場のようにスナップや動体撮影の比重が高い環境では弱点として強く意識されがちです。

結果としてGalaxy Ultraの望遠撮影では、**シャッター速度が足りない、あるいはシャッターが遅れて切れる、そのどちらか一方でも動体ブレは発生します**。この二重の制約こそが、静止物では圧倒的に美しいのに、動く被写体では失敗率が上がるという評価につながっているのです。

Galaxy S25 UltraとiPhone 16 Pro Maxの望遠手持ち性能比較

望遠域を手持ちで使いこなせるかどうかは、単なる倍率や解像感以上に、撮影体験そのものを左右します。Galaxy S25 UltraとiPhone 16 Pro Maxは、ともに5倍望遠を主軸に据えていますが、手持ち撮影時の安定性と成功率には明確な思想の違いが表れています。

まずハードウェア面では、Galaxy S25 Ultraの5倍望遠がF3.4という明るさと1/2.52インチの50MPセンサーを組み合わせている点が重要です。これは前世代の10倍F4.9と比較して約1段分有利で、同じISOであれば**シャッター速度を2倍近く速くできる**計算になります。実際、夕方の屋外やドーム会場の客席といった中低照度環境では、被写体ブレと手ブレの両方を抑えやすい設計です。

項目 Galaxy S25 Ultra iPhone 16 Pro Max
望遠の主軸 光学5倍(50MP) 光学5倍
レンズの明るさ F3.4 非公表だが実写ではやや暗め
手ブレ補正の傾向 強力だが挙動は繊細 自然で破綻しにくい

一方で、iPhone 16 Pro Maxはセンサーシフト式OISとEISの協調制御が非常に成熟しており、歩きながらの望遠撮影でも映像や写真が破綻しにくい点が特徴です。Tom’s Guideなどの実写比較でも、**手持ち動画ではジンバルに近い安定感**が評価されています。静止画においても、AppleはISOを上げてでもシャッター速度を確保する露出制御を取るため、動きのある被写体では成功率が高くなりやすいです。

Galaxy S25 Ultraは逆に、低ISO・高画質を優先する制御が残っており、DXOMARKが指摘するようにシャッターラグや合成処理の影響で、タイミングがシビアになる場面があります。ただし、10倍以上では評価が逆転します。Galaxyは5倍50MPセンサーを活かしたクロップとAI超解像により、**10倍〜20倍でも手持ちで実用的な解像感**を維持しやすく、遠方の被写体を「確認できる写真」として残せる点はiPhoneにはない強みです。

夜景や暗所では差がさらに明確になります。TechRadarの比較では、Galaxyが8秒前後のナイトモード露光を提案するケースがあり、手持ちでは難易度が高い一方、iPhoneは1〜3秒程度でまとめる傾向があり、結果として歩留まりが安定します。つまり、**短時間で確実に撮りたいならiPhone、多少の試行錯誤を許容してでも遠くを攻めたいならGalaxy**という棲み分けが見えてきます。

総じて、望遠手持ち性能は単純な優劣ではなく、どこまでを“手持ちの限界”と定義するかで評価が分かれます。iPhone 16 Pro Maxは誰が持っても安定した結果を出しやすく、Galaxy S25 Ultraは条件と使い方が噛み合ったときに、他では得られないリーチと情報量を手持ちで引き出せるカメラだと言えます。

AI超解像はどこまで写真を“作って”いるのか

AI超解像は「失われた情報を復元する技術」と説明されがちですが、実際にはかなり性質が異なります。**現在のスマートフォンにおける超解像は、写真を復元するというより、文脈に基づいて再構成している**と理解したほうが正確です。Galaxy Ultraシリーズでは、10倍以上のズーム領域でこの傾向が顕著になります。

SamsungのProVisual Engineは、複数フレーム合成と機械学習モデルを組み合わせ、被写体の種類を識別したうえで処理を変えています。建物、文字、月、人物といったカテゴリごとに最適化された推定アルゴリズムが働き、センサーに写っていない細部を補完します。Nature系ジャーナルでも指摘されている通り、これは信号復元ではなく、確率的推定に近いアプローチです。

**AI超解像は「写っていないものを、それらしく描く」技術であり、常に事実を保証するものではありません。**

実例としてよく知られているのが月面撮影です。Galaxy Ultraシリーズでは、月を30倍以上で撮影するとクレーターの陰影が明瞭に現れますが、これはリアルタイムに学習済み月面データを参照し、ノイズと判定された領域に既知のパターンを重ねているためです。Samsung自身も過去に、月撮影におけるシーン認識型処理の存在を認めています。

一方で、この挙動は「捏造」とは言い切れません。DXOMARKが指摘するように、超解像処理は解像感の知覚を高めることに主眼が置かれており、SNSやスマートフォン画面での鑑賞では高い満足度を生みます。問題になるのは、記録性や検証性が求められる用途です。

観点 光学ズーム AI超解像ズーム
情報の出所 センサーに入射した光 学習データと推定
拡大限界 物理的制約あり 理論上は高倍率可能
信頼性 高い 被写体依存

Galaxy S25 Ultraでは5倍光学と50MPセンサーを基点に、10倍前後までは比較的自然な超解像が行われます。しかし20倍、30倍と進むにつれ、**ディテールの一貫性よりも「それっぽさ」が優先される**傾向が強まります。看板の文字が読めても、実際のフォントや配置と異なる場合があるのはこのためです。

重要なのは、AIがどこから介入しているかをユーザーが理解することです。高倍率ズームで得られる画像は、現実の拡大写真というより、AIによる高解像イメージ生成に近づいています。この特性を把握したうえで使えば、Galaxy Ultraの超解像は強力な表現ツールになりますが、事実の記録として扱うには慎重さが求められます。

Expert RAWとデジタルNDが切り拓く手持ち撮影の可能性

Expert RAWとデジタルNDフィルターの組み合わせは、Galaxy Ultraシリーズにおける手持ち撮影の常識を大きく更新します。従来、シャッター速度を遅くする表現は三脚前提でしたが、計算写真学の進化によって「手持ちでも成立する長時間露光」が現実的な選択肢になりつつあります。

Expert RAWのNDフィルターは、物理的な減光ガラスを挟む仕組みではありません。複数の短時間露光を高速連写し、それらを精密に位置合わせして合成することで、結果として長時間露光に近い描写を生成します。Samsungの公式解説や開発者向け資料によれば、この処理では静止している背景と動いている被写体をAIが分離認識し、動きの軌跡だけを強調するのが特徴です。

この分離認識こそが、手持ち撮影を成立させる最大の鍵です。OISで吸収しきれない微細なブレは、フレーム間のアライメント処理で補正され、結果として水流や雲、人の動きだけが自然に流れます。実写検証では、しっかりと脇を締めた姿勢を保てば、1/2秒から1秒相当の表現が手持ちで成功するケースが多く報告されています。

撮影条件 通常写真モード Expert RAW+デジタルND
シャッター速度 自動で高速化 意図的に低速化
手ブレ耐性 OIS依存 OIS+合成補正
表現 動きを止める 動きを流す

特に相性が良いのは、都市部の噴水や滝、夜間の車のライト軌跡です。日本のレビューコミュニティや海外メディアの実写例でも、三脚なしで水面がシルクのように描写される点は高く評価されています。Adobeの計算写真研究でも指摘されているように、マルチフレーム合成はS/N比を改善しながら表現の自由度を広げる手法として、今後さらに重要性を増すとされています。

一方で、万能ではありません。被写体全体が大きく動くシーンや、極端に暗い環境では合成エラーが起きやすく、意図しないゴーストが発生することもあります。また天体撮影モードのように数分単位の露光を要するケースでは、専門家や公式ガイドが明言している通り三脚が必須です。

それでも、Expert RAWとデジタルNDは「手持ち撮影=瞬間を切り取るもの」という固定観念を崩しました。撮影者が表現を選び、シャッター速度をデザインする。その一部をAIが支えることで、スマートフォンは単なる自動カメラから、創作ツールへと確実に進化しています。

Sペン仕様変更が望遠撮影体験に与えた影響

Galaxy Ultraシリーズの望遠撮影体験において、Sペンの仕様変更は想像以上に大きな影響を及ぼしています。特にS25 UltraでBluetooth機能とジャイロセンサーが削除されたことで、従来当たり前のように使われていた「リモートシャッター」という撮影手法が失われました。

この変化は単なる利便性の低下ではなく、望遠手持ち撮影の成功率そのものに直結します。望遠域では、被写体までの距離が伸びるほど、わずかな操作振動が画面上で大きなズレとして現れます。とくに10倍以上では、シャッターボタンを指で触れるだけで構図が破綻するケースも珍しくありません。

これまでのSペンは、空中でボタンを押すだけでシャッターを切れるため、タッチブレを完全に排除できる「物理的に最も合理的な解決策」でした。カメラ工学の観点でも、CIPAや各種写真工学の文献では、レリーズ操作時の振動が高倍率撮影の主要な失敗要因であると繰り返し指摘されています。

項目 Bluetooth対応Sペン S25 UltraのSペン
リモートシャッター 可能 不可
操作時の振動 ほぼゼロ 画面タップ依存
超望遠撮影の安定性 非常に高い ユーザー依存

Samsungはこの仕様変更について、コストや内部スペース、消費電力の最適化を理由に挙げています。TechRadarやSamMobileなどの専門メディアも、内部設計の合理化という点では理解できる判断だと伝えていますが、望遠撮影という一点に絞ると、ユーザー体験は確実に後退したと言わざるを得ません。

代替策として用意されている音声コマンドやタイマー撮影は一定の効果があります。ただし、音声シャッターは静寂が求められる場所では使いにくく、2秒タイマーは動体撮影や一瞬を切り取る望遠スナップには不向きです。Galaxy Watchを使ったリモート操作も有効ですが、追加デバイスを前提とする点で敷居は高くなります。

結果として、Sペンの仕様変更は「誰でも安定して撮れる望遠体験」から、「撮影者の技量が問われる望遠体験」へのシフトを生みました。高性能なOISやAI超解像が進化した一方で、その性能を最大限に引き出す最後の一押しが失われた構図です。

望遠撮影におけるSペンは、単なる入力デバイスではなく、物理法則に対抗するための重要なインターフェースでした。その不在は、スペック表には現れないものの、実写体験の中で確実に存在感を放っています。

参考文献