気づけばスマホを手に取り、目的もないまま画面を眺め続けていた。そんな経験はありませんか。ガジェットやアプリが生活を便利にする一方で、私たちの「注意」が静かに奪われている感覚を抱く人は年々増えています。

2026年現在、スクリーンタイムは単なる使いすぎの問題ではなく、心理学、経済、テクノロジー、さらには法制度までを巻き込む社会的テーマへと進化しました。SNSや動画サービスに組み込まれた巧妙な設計は、私たちの意思決定に影響を与え、知らないうちに時間や集中力を消費させています。

本記事では、日本国内外の最新データや研究結果をもとに、スクリーンタイムが増え続ける背景、その身体的・精神的影響、そしてAndroidやiOSに搭載された最新AI機能、法規制の動きまでを俯瞰します。デジタルを敵にするのではなく、賢く使いこなすための視点を得られることが、この記事を読む最大のメリットです。

アテンション・エコノミーとは何か、なぜ2026年に問題視されるのか

アテンション・エコノミーとは、人間の「注意」を希少資源と捉え、それを獲得・売買することで収益を生み出す経済構造を指します。SNS、動画配信、ニュースアプリ、ゲームなど、多くのデジタルサービスは利用料ではなく広告や課金で成り立っており、**ユーザーがどれだけ長く、どれだけ頻繁に画面を見続けるか**が価値の源泉になります。

2026年にこの問題が深刻視される理由は、アテンション・エコノミーが単なる「時間の奪い合い」から、**人間の認知特性や脆弱性を前提に設計された高度な心理工学システムへ進化した**点にあります。米国の心理学・情報倫理分野の研究によれば、現代のプラットフォームはユーザーの意思決定を意識的に介在させず、無意識レベルで行動を誘導する設計を組織的に採用しています。

象徴的なのがインフィニット・スクロールやレコメンドアルゴリズムです。次に何が表示されるかわからない不確実性は、行動科学でいう変動報酬と同じ効果を持ち、脳内の報酬系を刺激し続けます。その結果、ユーザーは「やめ時」を判断できず、注意の主導権を徐々に手放していきます。

項目 2024年時点 2026年の位置づけ
平均スクリーン利用 1日5〜7時間 生活時間の中核に定着
設計思想 利便性・効率重視 エンゲージメント最優先
社会的影響 個人の習慣問題 公衆衛生・規制課題

さらに2026年は、オンライン滞在時間そのものが限界に達した「デジタル飽和社会」です。総務省や各国調査機関のデータが示す通り、可処分時間の増加は見込めない一方、サービス数と情報量だけが増え続けています。この構造下では、**注意を奪う手法がより過激かつ巧妙になるインセンティブ**が働きます。

結果として問題視されているのは、依存症状や集中力低下といった個人の変化だけではありません。睡眠、学習、意思決定、民主的議論といった社会基盤そのものが、注意の断片化によって侵食されつつあります。世界保健機関や主要大学の研究者が、アテンション・エコノミーを公衆衛生リスクとして扱い始めているのは、その影響が個人の努力では制御できない段階に入ったことを示しています。

2026年にこの概念が改めて問われているのは、私たちが「時間を使っている」のではなく、**気づかぬうちに注意を設計された環境に委ねている**という構造が、もはや無視できなくなったからです。

日本人のスクリーンタイム最新実態と世代別の特徴

日本人のスクリーンタイム最新実態と世代別の特徴 のイメージ

日本人のスクリーンタイムは、2026年時点で「一部のヘビーユーザーの問題」ではなく、全世代に広がる生活インフラの一部として定着しています。こども家庭庁やモバイル社会研究所の最新調査によれば、オンライン接続時間は年齢によって目的こそ異なるものの、総量としては確実に増加傾向にあります。

特に注目すべきなのは若年層です。高校生の平均インターネット利用時間は約6時間14分に達し、3人に1人が7時間以上利用しています。動画視聴やSNSといった娯楽利用が中心で、学習用途と明確に切り分けられていない点が特徴です。中学生でも約4時間42分と前年から大幅に増えており、デジタル接触の低年齢化が進行しています。

世代 1日平均利用時間 主な特徴
小学生(10歳以上) 約3時間46分 学習端末と家庭内娯楽の併用
中学生 約4時間42分 動画視聴・SNS利用が急増
高校生 約6時間14分 7時間超が一般化
10〜20代成人 7.3〜7.7時間 私用利用が生活の中心

一方、成人層では量の多さが際立ちます。10代後半から20代では1日7時間を超える利用が常態化し、そのうち5時間以上が私的利用です。モバイル社会研究所によれば、仕事や学業以外の時間もデジタルに吸収され、可処分時間の大部分がスクリーン上で消費されている実態が明らかになっています。

さらに見過ごせないのが低年齢層です。2歳児の約6割、5歳児の約8割が日常的にデジタル端末に触れており、平均利用時間は2時間を超えています。専門家は、早期からの長時間接触が「当たり前」になることで、注意の持続や自己制御の発達に影響を及ぼす可能性を指摘しています。

教育現場のICT化もスクリーンタイム増加を後押ししています。GIGAスクール構想により、小学生でも1日約1.9時間、中高生では2時間以上を学校配布端末で使用しています。文部科学省の調査では、小学6年生の約2割、中学3年生の約3割が裸眼視力0.3未満とされ、世代別スクリーンタイムの差は、身体的影響の差としても表面化しています。

このように日本のスクリーンタイムは、世代ごとに「娯楽化」「常時接続化」「早期定着化」という異なる顔を持ちながら、総量としては右肩上がりです。数字を冷静に読み解くことで、単なる使用時間ではなく、世代ごとのリスク構造が浮かび上がってきます。

教育のICT化がもたらした利便性と身体的リスク

教育現場のICT化は、学習効率と教育機会の平等を大きく前進させました。GIGAスクール構想により一人一台端末が整備されたことで、調べ学習や資料共有、個別最適化された課題提示が日常化し、教師の経験や勘に依存しないデータ駆動型の指導も可能になっています。文部科学省も、ICT活用が主体的・対話的で深い学びを促進すると位置づけており、特別支援教育や不登校支援の分野でも一定の成果が報告されています。

一方で、その利便性の裏側で無視できない身体的リスクが顕在化しています。特に問題視されているのが視力低下です。文部科学省の調査によれば、小学6年生の約2割、中学3年生では約3割が裸眼視力0.3未満とされ、長時間の画面注視が一因と考えられています。紙の教科書では自然に生じていた視線移動や休憩が、デジタル教材では意識しなければ失われやすい点が専門家からも指摘されています。

端末利用の増加は、視力だけでなく身体全体への負荷として現れています。小学生でも1日2時間前後、中高生では2時間を超える学習用スクリーンタイムが報告されており、これに家庭での私用利用が重なることで、首・肩・背中への慢性的な負担、いわゆるストレートネックのリスクが高まっています。日本整形外科学会も、成長期の不良姿勢が将来的な慢性疼痛につながる可能性に警鐘を鳴らしています。

影響部位 主な要因 懸念される影響
長時間の近距離注視 視力低下、眼精疲労
首・肩 前傾姿勢の固定化 痛み、姿勢悪化
睡眠 夕方以降の画面使用 入眠遅延、睡眠不足

さらに見逃せないのが、学習効率と密接に関わる睡眠への影響です。54万人規模の解析研究によれば、スクリーンタイムが1時間増えるごとに睡眠時間が3〜5分短縮する傾向が示されています。オンライン教材や宿題の提出が夜間に及ぶケースでは、学習のためのICT利用が結果的に翌日の集中力低下を招くという逆説的な状況も生まれています。

教育のICT化そのものが問題なのではありません。問題は、成長段階にある子どもの身体特性を前提とした設計や運用が追いついていない点にあります。眼科医や小児科医の間では、20分ごとに20秒遠くを見るといった具体的な休憩ルールや、端末の高さ・照度調整を学校全体で標準化すべきだという提言が増えています。

教育の質を高めるためのICTが、子どもの身体的ウェルビーイングを損なっては本末転倒です。利便性とリスクを正しく理解し、使い方そのものを教育の一部として設計することが、2026年以降のICT教育に求められる重要な視点だと言えるでしょう。

中毒的設計とアルゴリズムが人間心理に与える影響

中毒的設計とアルゴリズムが人間心理に与える影響 のイメージ

中毒的設計とアルゴリズムは、もはや単なる使いやすさの追求ではありません。2026年のデジタル環境では、ユーザーの注意をいかに長く引き留めるかが収益に直結し、その最適化が人間心理の深部にまで及んでいます。注意は資源であり、設計次第で収奪できるという発想が、アテンション・エコノミーの根幹にあります。

こうした設計の中心にあるのが、行動心理学と神経科学を組み合わせたアルゴリズムです。Frontiers in Psychologyに掲載された研究によれば、変動報酬と呼ばれる仕組みは、次に何が表示されるかわからない不確実性によってドーパミン放出を促し、行動を反復させます。これはスロットマシンと同じ原理で、インフィニット・スクロールやおすすめ自動再生が代表例です。

特に問題視されているのが、ユーザー自身が「やめ時」を判断できなくなる点です。情報の区切りが意図的に排除されることで、脳は完了感を得られず、スクロールやタップを続けてしまいます。意思決定の主体が人からアルゴリズムへ静かに移行する構造がここにあります。

設計要素 心理的作用 行動への影響
インフィニット・スクロール 完了感の欠如 利用終了の先送り
変動報酬 期待と快感の反復 無意識の継続利用
過剰通知 注意の分断 頻繁な再訪

さらにダークパターンと呼ばれるUI設計は、選択の自由そのものを歪めます。ダークパターン対策協会の分類では、解約を意図的に難しくする妨害型や、社会的証明を誇張する手法が確認されています。これらは判断を急がせ、冷静な比較を奪うことで、ユーザーを不利な行動へ導きます。

心理的影響は世代によって異なる形で表れます。2025年の研究では、高齢者の54.1%が高いエンゲージメント状態にあり、6.4%が中毒基準を満たしていました。若年層では自己制御機能が未成熟なため、習慣形成が加速しやすく、どちらもアルゴリズムの影響を受けやすい点が共通しています。

重要なのは、これが個人の意志の弱さではないという事実です。Weizenbaum Instituteの報告が指摘するように、中毒的設計はユーザーの脆弱性を前提に構築されています。人間心理を理解した上で、抗えない状況を作ることが、現代アルゴリズムの本質です。

この現実を理解することは、デジタル機器を使う側にとって防御の第一歩になります。なぜ時間を吸い取られるのか、その背後にある設計思想を知ることで、初めて注意を取り戻す選択肢が見えてくるのです。

ダークパターンの具体例とユーザーが陥りやすい罠

ダークパターンは、ユーザーの不注意や心理的な隙を突くことで、本来望まない行動へと巧妙に誘導する設計手法です。2026年のアテンション・エコノミーにおいては、単なる悪質なUIではなく、行動科学とデータ分析を組み合わせた高度な仕組みとして進化しています。ユーザー自身が「選んだつもり」になってしまう点が、最大の危険性です。

代表的な例の一つが、解約や設定変更を極端に分かりにくくする設計です。登録は数クリックで完了する一方、解約は深い階層に隠され、専門用語が並ぶ画面を何度も通過させられます。インディアナ大学ロースクールの研究によれば、こうした設計はユーザーの認知的負荷を意図的に高め、途中で諦めさせる効果があると指摘されています。

手法 具体的UI例 ユーザーが陥る罠
妨害型デザイン 解約ボタンが見つからない 不本意な継続利用
ナギング 拒否後も繰り返される通知 疲労による同意
スニーキング 自動更新の事後告知 想定外の課金

また、社会的証明を悪用した表示も多くのユーザーが陥りやすい罠です。「他の100人が閲覧中」「今この瞬間も購入されています」といった文言は、実際の根拠が乏しい場合でも、行動を急がせる効果があります。スタンフォード大学の行動デザイン研究では、人は不確実な状況ほど他者の行動に依存しやすいことが示されており、これが焦燥感を生みます。

インフィニット・スクロールも見逃せません。情報の終わりが見えない設計は、「ここでやめる」という判断点を消し去ります。フロンティアーズ誌の心理学研究では、変動報酬がドーパミン放出を促し、ユーザーの自己制御を低下させることが示されています。気づいたときには想定以上の時間を費やしているのは、この仕組みの結果です。

さらに厄介なのが、初期設定で不利な選択肢が有効化されているケースです。位置情報の常時取得やデータ共有がデフォルトでオンになっていると、多くの人は変更しないまま使い続けます。これは人間の現状維持バイアスを利用した典型例であり、ユーザーの無意識に依存しています。

これらのダークパターンは、知識がなければ気づきにくく、気づいても疲労によって受け入れてしまう点が共通しています。だからこそ、仕組みそのものを理解し、「なぜ今この操作を促されているのか」と一歩立ち止まる視点が、デジタル環境で自分の注意と選択を守る鍵になります。

スクリーンタイムが睡眠とメンタルヘルスに及ぼす定量的影響

スクリーンタイムが睡眠とメンタルヘルスに及ぼす影響は、感覚的な問題ではなく、すでに大規模データによって定量的に裏付けられた事実として示されています。特に近年は、利用時間の総量だけでなく「いつ」「どのように」使うかが、睡眠の質や精神状態に深く関与することが明らかになっています。

54万人以上を対象にした国際的な大規模解析によれば、1日のスクリーンタイムが1時間増えるごとに、総睡眠時間は平均で約3〜5分短縮することが確認されています。数字だけを見ると小さく感じるかもしれませんが、これが毎日積み重なることで、慢性的な睡眠不足へとつながります。

スクリーン利用の変化 睡眠への定量的影響 確認されたリスク
利用時間が1時間増加 睡眠時間が約3〜5分減少 短時間睡眠リスクが約25%上昇
就寝前の使用 入眠までの時間が延長 睡眠の分断・熟睡感の低下

特に問題視されているのが就寝前のスクリーン利用です。医学系研究プラットフォームで報告されている複数の研究では、寝る直前までスマートフォンやタブレットを操作することで、入眠潜時が有意に延び、深い睡眠の割合が低下することが示されています。これはブルーライトの影響だけでなく、情報刺激そのものが脳を覚醒状態に保つためです。

睡眠への影響は、そのままメンタルヘルスにも波及します。米国国立衛生研究所が関与するABCD研究では、9〜10歳の子どもを対象にした解析から、スクリーンタイムの長さが抑うつ症状、注意欠如・多動症状、行動上の問題と相関することが報告されています。特に動画視聴、ゲーム、メッセージングといった受動的・反復的な利用形態ほど関連が強い点が特徴です。

若年層に限らず、10代後半から20代を対象にした調査でも、約48%が「自分の利用時間を把握できなくなっている」と回答し、4人に1人が「現実の問題から逃れるためにSNSを使っている」と感じていることが示されています。さらに、利用を減らそうとして失敗した経験を持つ人は17%にのぼり、行動の自己制御が損なわれている実態が数値として浮かび上がっています。

スクリーンタイムの増加は、睡眠不足を介して感情調整能力を低下させ、その結果さらにデジタル依存的な行動を強めるという負の循環を生みます。

睡眠時間の減少は翌日の集中力や判断力を低下させるだけでなく、不安感や抑うつ気分を増幅させます。こうした精神的疲弊が、再び即時的な快楽や逃避を求めるスクリーン利用を誘発する点が、専門家の間でも強く警告されています。スクリーンタイムの問題は、単なる生活習慣ではなく、睡眠とメンタルヘルスを数値で侵食する構造的リスクとして捉える必要があります。

Android 16とiOS 26に見るAIウェルビーイング機能の進化

2026年に登場したAndroid 16とiOS 26は、スクリーンタイム問題に対するアプローチを大きく転換させています。従来の「使いすぎを制限する」発想から一歩進み、AIがユーザーの注意と健康状態を理解し、行動そのものを穏やかに導く方向へと進化しました。背景には、アテンション・エコノミーが個人の自律性やメンタルヘルスに与える影響が、学術研究や公的機関によって明確に示されてきた事実があります。

Android 16では、GoogleのGemini AIを中核に据えたアテンション・マネジメントが特徴です。大量の通知を要約する機能は、単なる利便性向上にとどまりません。モバイル社会研究所などが指摘する「通知による注意の断片化」は、集中力低下や無意識の端末チェックを引き起こす要因とされており、AI要約はこの構造的問題への直接的な対抗策と位置づけられます。さらに、ペアレンタルコントロールの統合強化により、家庭内での利用管理がOSレベルで完結する点も実務的な進化です。

一方のiOS 26は、Appleらしいバイオメトリック重視の思想が色濃く反映されています。睡眠、心拍変動、スクリーンタイムを横断的に解析するAIウェルネスコーチは、医学研究で示されてきた「スクリーンタイム1時間増加で睡眠が数分削られる」という知見を、日常的なフィードバックへと翻訳します。Macworldなどの専門メディアによれば、これは単なる通知ではなく、行動変容を促すコーチング型UIである点が重要です。

項目 Android 16 iOS 26
AIの役割 通知と注意の整理・遮断 健康データ統合と行動助言
主な連携 Family Link、通話・通知 睡眠、心拍、ウェアラブル
狙い 注意資源の浪費防止 生活リズムと回復力の向上

注目すべきは、両OSとも「意志力に頼らない設計」を明確に志向している点です。心理学の研究では、自己制御は有限な資源であり、疲労やストレス下では機能しにくいとされています。AIが先回りして環境を整えることで、ユーザーは努力せずとも健全な選択をしやすくなります。

ただし、この進化は新たな問いも投げかけます。AIが注意や健康を最適化するということは、どこまで介入を許容するのかという倫理的境界線の問題でもあります。Android 16とiOS 26は、デジタル・ウェルビーイングを個人の自己責任からOSの設計責任へと引き上げた転換点であり、今後の評価はユーザーの信頼と透明性の確保にかかっています。

スマートグラス時代に変わる『画面』との付き合い方

スマートグラスの普及は、「画面」という概念そのものを静かに書き換えつつあります。これまで私たちは、手に持ったスマートフォンの矩形ディスプレイを能動的に開き、閉じることで情報と距離を取ってきました。しかし2026年、「スマートグラス元年」とも呼ばれる現在、情報は視界に重ねて常時提示される存在へと変化しています。

Lifehacker Japanなどのテクノロジー分析によれば、最新のスマートグラスは通知、ナビゲーション、翻訳、リマインダーといった機能を、現実空間に自然に溶け込ませる設計を重視しています。これにより、スマホを取り出す回数は減少し、操作の摩擦も大幅に低下しました。一方で、「画面をオフにする」「見ない選択をする」という従来の自己制御手段が通用しにくくなっています。

項目 スマートフォン中心 スマートグラス中心
情報への接触 自分で画面を開く 視界に常時表示される
注意の主導権 比較的ユーザー側 デバイス・AI側に移行
中断コスト 低い(閉じれば終了) 高い(視界から消えにくい)

この変化は利便性だけでなく、アテンション・エコノミーの構造にも影響を与えます。Frontiers in Psychologyなどの研究が指摘するように、人間の注意は環境刺激に強く影響されます。スマートグラスでは、通知や情報が意図せず視野に入る「受動的注意」を頻発させ、集中の分断がより起こりやすくなります。

さらに重要なのは、「スクリーンタイム」という指標自体が曖昧になる点です。画面注視時間を前提とした従来の健康管理やペアレンタルコントロールは、AR表示の断続的な介入を正確に捉えられません。AppleやGoogleがOSレベルでアテンション管理を強化している背景には、こうした測定不能領域の拡大があります。

一方で、スマートグラスは画面依存からの脱却の可能性も秘めています。必要最小限の情報を短時間だけ提示し、タスク完了と同時に消える設計が徹底されれば、無限スクロールのような中毒的体験を回避できます。実際、ARインターフェース研究では「情報の即時消失」が認知負荷を下げるという報告も見られます。

つまり、スマートグラス時代の「画面」との付き合い方は、見るか見ないかではなく、どの情報を、誰の判断で、どのくらいの密度で視界に入れるのかという設計思想の問題になります。画面が消える時代ではなく、画面が環境化する時代において、私たちは注意の主導権を再定義する局面に立たされています。

日本で進むダークパターン規制とデジタル法制度の現在地

日本では2025年末から、ダークパターンを明確に問題視する動きが一気に加速し、2026年はデジタル法制度の転換点として位置づけられています。背景にあるのは、SNSやEC、サブスクリプションサービスにおいて、利用者の意思決定を歪めるUIが常態化してきたという社会的認識です。アテンション・エコノミーの進化が、単なる利便性競争から、心理的脆弱性を突く設計競争へと変質したことが、政策レベルでも共有されるようになりました。

消費者庁は2025年12月の方針公表を受け、2026年1月から「デジタル取引・特定商取引法検討会」を本格始動させています。ここで焦点となっているのが、いわゆる「不実なUI」の排除です。これは誤表示や虚偽広告に限らず、選択肢の強調や手続きの煩雑化によって、特定の行動へ誘導する設計そのものを規制対象として捉える点に特徴があります。欧州の消費者保護法制を参照しつつも、日本独自の商慣行やデジタル文化を踏まえた整理が進められています。

規制対象 具体例 2026年時点の対応
意思決定を歪めるUI 有利な選択肢の事前選択、誤認を招く強調表示 禁止行為として法制化を検討
解約妨害 解約導線の多層化、問い合わせ必須設計 是正命令・指導の対象
執拗な勧誘 SNSチャットでの断りにくい勧誘 特商法枠組みでの規制強化

この動きは、単なる「ユーザー保護」にとどまりません。法学分野では、インディアナ大学などの研究を通じて、ダークパターンを「不忠実な設計(Disloyal Design)」と位置づけ、企業が本来負うべき利用者への信義則に反する行為だと整理しています。日本の検討会でも同様の視点が共有され、UI設計が企業倫理の一部として評価される流れが生まれています。

また、官だけでなく民間主導の取り組みも重要な役割を果たしています。ダークパターン対策協会が開始したWebサイト認定制度は、2026年に入り国内企業の取得が相次ぎ、「誠実なUI」がブランド価値として可視化される状況を作り出しています。これは規制による抑止と、市場による選別が同時に進む、日本型デジタル・ガバナンスの特徴と言えるでしょう。

さらに、オンラインカジノ的設計や射幸心を煽る広告誘導についても、改正法によりSNS上での誘導行為が厳しく制限されました。これは若年層のスクリーンタイム増加や依存問題と直結する論点であり、アテンションの搾取を社会的リスクとして扱う姿勢が明確になった点で象徴的です。

2026年の日本は、ダークパターンを「グレーな工夫」ではなく、「法と倫理の境界線を越える行為」として定義し始めています。この現在地は、今後のUI設計やサービス選択において、私たち自身が何を信頼すべきかを判断する重要な指標となりつつあります。

個人が実践できるデジタル・ウェルビーイング戦略

アテンション・エコノミーが高度化した2026年において、デジタル・ウェルビーイングは個人の意志力だけに頼るものではなく、環境設計として捉える必要があります。注意力は有限な認知資源であり、守るべき対象だという前提に立つことが、すべての戦略の出発点になります。

実践の第一歩は、スクリーンタイムを「感覚」ではなく「可視化されたデータ」として把握することです。こども家庭庁やモバイル社会研究所の調査が示すように、日本では10代・20代で1日7時間を超える利用が常態化しています。OS標準のスクリーンタイム機能を確認すると、多くの人が想像以上にSNSや動画に時間を費やしていることに気づきます。現状認識そのものが行動変容を促す点は、行動科学でも繰り返し示されています。

次に重要なのが、通知と入口の最適化です。2026年のAndroid 16やiOS 26では、AIによる通知要約や重要度判定が実装され、すべてをリアルタイムで確認する必要はなくなりました。スタンフォード大学の行動設計研究でも、通知の頻度を下げるだけで集中力と主観的幸福感が有意に改善すると報告されています。通知は減らす対象であり、我慢する対象ではありません

対策領域 具体的な行動 期待できる効果
通知管理 AI要約のみ有効化、即時通知を最小限に 注意の分断を防ぎ集中力が持続
利用時間 アプリ別上限設定を平日・休日で分ける 無意識の長時間利用を抑制
就寝前行動 自動メディア停止や就寝モードを活用 睡眠の質と翌日の認知性能が向上

睡眠との関係も見逃せません。54万人規模の解析によれば、スクリーンタイムが1時間増えるごとに睡眠時間は平均3〜5分短縮するとされています。数分に見えても、慢性的に積み重なることで判断力や感情調整に影響します。AppleのAIウェルネスコーチのように、睡眠データと利用時間を統合してフィードバックを受け取る仕組みは、自己管理を自動化する有効な手段です。

さらに有効なのが、物理的・行動的な摩擦を意図的に作ることです。例えば、SNSアプリをホーム画面から外す、ログアウト状態を維持する、動画視聴はテレビなど別デバイスに限定するといった工夫は、ハーバード大学の行動経済学が示す「選択コスト」を活用した方法です。使いにくさは悪ではなく、自律性を守る設計と捉えられます。

最後に、デジタル・ウェルビーイングは完璧を目指すものではありません。ダークパターンや中毒的設計が前提となった環境では、ゼロにすること自体が非現実的です。重要なのは、テクノロジーを敵視せず、自分の注意と時間を取り戻すためのツールとして再設計する視点です。個人がこうした小さな戦略を積み重ねることが、アテンション・エコノミーに対抗する最も現実的で持続可能なアプローチになります。

参考文献