スマートフォンやガジェットはここ数年で大きく進化しましたが、「速くつながる」だけでは物足りなさを感じていませんか。
鍵や財布が見つからない、スマートロックが意図せず反応する、車のデジタルキーが本当に安全なのか不安になる。そんな日常の小さなストレスの裏側には、位置や距離を正確に把握できないという共通の課題があります。
そこで注目されているのが、UWB(超広帯域無線)です。UWBは単なる通信技術ではなく、デバイスに「距離感」や「方向感覚」を与える新しい基盤として、AppleのAirTagやBMWのデジタルキーを皮切りに急速に普及しています。
さらに日本では、電波法改正による屋外利用の解禁や、少子高齢化に伴う見守り需要、スマートホーム・モビリティ分野の成長が重なり、UWBが現実的な選択肢になりつつあります。
本記事では、ガジェット好きの方に向けて、UWBの仕組みから日本市場特有の事情、最新ガジェットや自動車への活用事例、そして2025年以降の展望までを俯瞰します。読み終える頃には、あなたの身の回りの「空間」がどう変わるのか、具体的にイメージできるはずです。
UWBが再び注目される理由と近距離無線の進化
近距離無線の世界では、長らく「どれだけ速く、どれだけ安定してつながるか」が進化の軸でした。Wi‑FiやBluetoothはその完成度を高め、日常利用において不足を感じにくい段階に到達しています。しかし近年、技術の評価軸が「つながる」から「わかる」へと静かに、しかし確実に移行しています。
この転換点で再び脚光を浴びているのがUWBです。UWBは通信速度や距離の長さではなく、デバイス同士の正確な距離や方向を把握できる点に本質的な価値があります。IEEE 802.15.4zやFiRa Consortiumの技術解説によれば、UWBは数センチ単位の測距精度を安定して実現でき、従来のBluetooth RSSI方式では困難だった空間理解を可能にします。
近距離無線が進化の壁に突き当たった理由の一つは、現実空間の複雑さです。屋内では壁や家具による反射が多く、電波強度を基準にした推定は不安定になります。UWBは時間分解能の高いパルス信号を用いることで、反射波の影響を受けにくく、実環境で精度が落ちにくいという特性を持っています。
| 技術 | 主な評価軸 | 空間把握能力 |
|---|---|---|
| Bluetooth LE | 省電力・互換性 | 数メートル誤差 |
| NFC | 近接認証 | 接触前提 |
| UWB | 距離・方向の精度 | 数センチ単位 |
この進化が現実味を帯びた背景には、スマートフォンや車載システムの高度化があります。AppleやGoogleがUWBを標準搭載し始めたことで、近距離無線は単なる補助通信ではなく、UIやUXを設計する基盤技術へと格上げされました。近づく、かざす、立つといった人の動作が、そのままデジタルのトリガーになる点が従来と決定的に異なります。
総務省の制度整備により屋外利用が可能になったことも、日本市場で注目度が再燃した理由です。理論だけでなく実装と制度がかみ合ったことで、UWBは「一度消えた技術」から「次世代の近距離無線の中核」へと立ち位置を変えました。近距離無線の進化は、速度競争の終焉とともに、空間理解という新しいステージに入っています。
超広帯域無線の仕組みとインパルスラジオの特徴

超広帯域無線が従来の無線技術と一線を画す理由は、信号の作り方そのものにあります。Wi-FiやBluetoothが正弦波の搬送波を連続的に変調して情報を送るのに対し、UWBはナノ秒単位の極めて短いパルスを断続的に放射するインパルスラジオ方式を採用しています。この根本的な違いが、測位・センシング・通信を同時に成立させる土台になっています。
インパルスラジオでは、1回の送信が非常に短いため、時間分解能が飛躍的に高くなります。例えば1ナノ秒の時間差は、光速換算で約30センチの距離差に相当します。QorvoやMurata Manufacturingの技術解説によれば、近年のUWBチップはピコ秒オーダーの制御が可能になり、理論だけでなく実用環境でも数センチ精度の距離測定を安定して実現しています。
短いパルスで時間を測るという発想そのものが、UWBを「通信規格」ではなく「距離を測る計測技術」へと進化させています。
またUWBは、500MHz以上、もしくは中心周波数の20%を超える帯域幅を使うと定義されています。この広帯域性により、エネルギーは広い周波数帯に薄く分散され、電力スペクトル密度は自然界のノイズと同等かそれ以下になります。Rohde & Schwarzの干渉評価でも示されている通り、既存の無線システムと同じ空間で共存しやすい点が大きな特徴です。
屋内環境でUWBが特に強い理由も、インパルスラジオにあります。日本の住宅やオフィスは反射物が多く、電波が複雑に跳ね返りますが、UWBでは直接届く最初のパルスと反射波が時間軸上で分離されます。受信側は最初の到達成分だけを使って距離を算出できるため、反射の影響を受けにくくなります。この特性は、Bluetoothの受信強度方式が不安定になりがちな環境と対照的です。
| 観点 | 従来無線 | UWB(IR方式) |
|---|---|---|
| 信号形式 | 連続波 | 超短パルス |
| 距離推定 | 強度依存 | 時間差計測 |
| 屋内耐性 | 反射に弱い | 反射に強い |
さらに重要なのが、インパルスラジオは通信と同時にセンシングにも使える点です。IEEE 802.15.4zやFiRa Consortiumの仕様では、パルスの往復時間を測ることで距離を認証に利用する仕組みが標準化されています。これは暗号以前に物理法則を使って距離を検証する方法であり、後付けでは真似できないセキュリティ特性を持ちます。
このようにUWBの仕組みは、単に「速い」「新しい」無線という枠を超えています。インパルスラジオという発想が、距離・方向・存在を高精度に捉える基盤となり、デバイスに空間を理解させる能力を与えているのです。
数センチ精度を実現する測位技術と屋内に強い理由
UWBが数センチ精度の測位を実現できる最大の理由は、ナノ秒以下という極めて短いパルス信号を用いる点にあります。従来のBluetoothやWi-Fiが連続した電波の強度変化を頼りに距離を推定するのに対し、UWBは電波が往復する時間そのものを直接計測します。電波は1ナノ秒で約30センチ進むため、時間を精密に測れれば距離も物理的に高い分解能で求められます。
特に現在主流となっているDS-TWRと呼ばれる双方向測距方式では、送信側と受信側が互いにタイムスタンプを交換し合い、内部クロックのズレを相殺します。QorvoやMurata Manufacturingの技術解説によれば、この方式により理論値に近い誤差数センチメートルの安定した測距が可能になります。単発の測定ではなく、短時間に多数のパルスを統計的に処理する点も、精度を押し上げる重要な要素です。
さらにUWBは距離だけでなく方向も把握できます。複数アンテナを用いた到来角推定により、ユーザーから見て対象物がどの方向にあるかを角度として算出します。距離と方向を同時に取得できるため、「何メートル先」ではなく「右前方◯度に◯メートル」という直感的なナビゲーションが成立します。
| 方式 | 測位原理 | 屋内精度の傾向 |
|---|---|---|
| UWB | 飛行時間と到来角 | 数センチ〜数十センチで安定 |
| Bluetooth | 受信信号強度 | 数メートル単位で変動大 |
| Wi-Fi | 信号指紋・強度 | 環境依存で誤差が拡大 |
屋内でUWBが圧倒的に強い理由は、マルチパスへの耐性にあります。日本の住宅やオフィスは壁や家具、金属製の設備が多く、電波は複雑に反射します。Bluetoothのように強度を見る方式では、反射波が混ざることで距離が近づいたり遠ざかったりと不安定になります。
一方でUWBのパルスは非常に短いため、最短距離を通る直接波と、壁で反射して遅れて届く反射波が時間軸上で分離されます。受信機は最初に到達したパルスのみを選別できるため、反射の影響をほぼ受けません。IEEE 802.15.4zの技術資料でも、反射が多い非見通し環境でも直線距離を高精度で測定できる点がUWBの本質的優位性として示されています。
この特性により、地下施設やマンションの一室、倉庫内といったGPSが使えない空間でも、UWBは実用レベルの測位精度を維持します。屋内外を問わず同じアルゴリズムで扱えるため、ガジェットやスマートデバイスにとって実装しやすい点も見逃せません。数センチ精度と屋内耐性の両立こそが、UWBを次世代の位置認識基盤に押し上げている理由です。
リレーアタックを防ぐUWBのセキュリティ性能

リレーアタックを防ぐという観点で、UWBのセキュリティ性能は従来の近距離無線とは次元が異なります。BluetoothやLF通信を用いたスマートキーでは、電波が届く範囲に「本物の鍵が存在するか」を信号強度で推定していました。しかしこの方法は、犯罪者が中継器で電波を延長・増幅することで簡単に欺けることが知られています。
UWBが決定的に違うのは、**信号の強さではなく、信号が届くまでの時間そのものを認証に使う点**です。ナノ秒単位の超短パルスを用いるUWBでは、電波の往復時間を計測することで実距離を割り出せます。この仕組みは距離バウンディングプロトコルと呼ばれ、光速という物理法則を前提にしているため、ソフトウェア的な偽装が極めて困難です。
Car Connectivity ConsortiumやFiRa Consortiumの技術資料によれば、リレーアタックでは中継処理に必ず微小な遅延が発生します。UWBはこの遅延を検知し、たとえ信号が強くても「距離が合わない」と判断した瞬間に認証を拒否します。これは暗号方式の強化とは異なり、**計算能力の進歩では突破できない防御壁**として評価されています。
| 項目 | 従来方式 | UWB方式 |
|---|---|---|
| 認証の基準 | 信号強度や応答有無 | 電波の往復時間 |
| 中継攻撃耐性 | 低い | 極めて高い |
| 物理的制約 | ほぼ無し | 光速に依存 |
実際の事例として、自動車業界ではBMWがUWB対応デジタルキーを導入し、欧州を中心に評価を高めています。自動車盗難の主要手口だったリレーアタックに対し、UWB採用車では成功率が大幅に低下したと業界関係者が述べています。これはメーカー独自の主張ではなく、IEEE 802.15.4z規格に基づく共通技術の成果です。
スマートロックやスマートホーム分野でも同様で、UWBは「ドアの前に人がいる」という事実を数センチ単位で確認できます。これにより、壁越しや玄関外からの不正解錠を原理的に排除できます。**鍵が近くにあるかではなく、鍵が“正しい位置”にあるかを問う**という発想の転換が、UWBセキュリティの本質です。
このようにUWBは、暗号アルゴリズムの巧妙さではなく、物理世界の制約を味方につけたセキュリティを実現しています。総務省や国際標準化団体がUWBを次世代認証の基盤技術として位置付ける背景には、利便性と同時に、この揺るぎない安全性への評価があります。
日本市場における電波規制と屋外利用解禁の影響
日本市場におけるUWB普及の最大の転換点となったのが、電波規制の見直しと屋外利用の解禁です。かつてUWBは、その超広帯域性ゆえに既存無線への干渉リスクが強く懸念され、総務省の電波法運用において「屋内利用限定」という厳しい条件が課されていました。この制約は、製品企画の段階でユースケースを大きく縛り、グローバルで展開されるガジェットが日本仕様だけ機能制限される要因にもなっていました。
しかし2019年、情報通信審議会の答申を受けた電波法施行規則の改正により、状況は大きく変わります。一定の技術要件を満たすことを前提に、UWB無線システムの屋外利用が正式に認められました。総務省の公開資料によれば、この制度整備は実証試験や干渉評価の積み重ねに基づくもので、UWBの電力スペクトル密度が既存システムに与える影響が限定的であることが確認された結果です。
屋外利用の解禁は、日本におけるUWBを「実験的技術」から「日常インフラ」へ押し上げた決定打でした。
この規制緩和によって初めて、スマートトラッカーの屋外探索や、自動車のスマートエントリーといった用途が法的にクリアになりました。AppleのAirTagやUWB対応デジタルキーが日本でフル機能を提供できるようになった背景には、この制度変更があります。単なる利便性向上にとどまらず、リレーアタック対策など安全性向上の観点からも、屋外利用の解禁は大きな意味を持ちました。
| 項目 | 規制緩和前 | 規制緩和後 |
|---|---|---|
| 利用可能エリア | 屋内限定 | 屋内・屋外 |
| 主な用途 | 実証・限定用途 | 車載キー、屋外トラッキング |
| 製品展開 | 日本専用仕様が必要 | グローバル仕様を導入可能 |
一方で、日本独自の厳しさが完全に消えたわけではありません。特に3.4GHz〜4.8GHz帯のローバンドUWBは、5Gや放送中継と周波数を共用しているため、DAAと呼ばれる干渉回避機能の実装が求められます。これは技術的・コスト的ハードルとなり得ますが、近年はAppleやNXPなど主要ベンダーがファームウェア制御で地域差を吸収しつつあり、製品投入のスピードは明らかに改善しています。
結果として、日本市場は「規制が厳しいが、一度クリアすれば信頼性が高い市場」へと位置づけが変化しました。屋外利用解禁は、単なるルール変更ではなく、日本のガジェットとモビリティ体験を世界水準へ引き上げる触媒となったのです。
AirTagに代表されるスマートトラッカーの進化
AirTagの登場以降、スマートトラッカーは単なる紛失防止グッズから、空間を理解するデバイスへと進化しました。その転換点にあるのが、超広帯域無線であるUWBの実装です。Bluetoothのみを使った従来型トラッカーは、電波強度から距離を推定するため誤差が大きく、最終的には音頼みになる場面が少なくありませんでした。これに対し、UWBを搭載したトラッカーは距離と方向を同時に把握でき、探す行為そのものを視覚的な体験へと変えています。
Appleが提供する「正確な場所を見つける」体験は、その象徴的な例です。iPhone 11以降に搭載されたUWBチップとAirTagを組み合わせることで、画面上に矢印と距離が表示され、数センチ単位で対象物へ誘導されます。これはUWBが持つToF測距と到来角推定を組み合わせた結果であり、IEEE 802.15.4z準拠の測位精度が、一般消費者の手元で初めて体感できる形で実装された事例だと評価されています。
重要なのは、精度の高さが安心感や行動変容につながっている点です。Appleによれば、視覚誘導によって探索時間が大幅に短縮され、屋内での探し物ストレスが軽減されたというユーザー報告が多数寄せられています。音が聞こえにくい環境や、バッグの奥深くに入った小物でも、迷わず一直線に近づける点は、従来技術では実現できなかった価値です。
| 項目 | Bluetooth型 | UWB対応型 |
|---|---|---|
| 測位精度 | 数メートル単位 | 数センチ〜数十センチ |
| 探索方法 | 音・強度表示 | 方向+距離の視覚誘導 |
| 屋内耐性 | 反射の影響大 | マルチパス耐性が高い |
Android陣営でもUWB対応は本格化しています。TileはUWB対応モデルでAR検索を導入し、カメラ越しに現実空間へアイコンを重ねる体験を提供しています。GoogleはOSレベルでUWB APIを整備しており、将来的には機種やメーカーを超えた共通体験が広がると見られています。業界団体であるFiRa Consortiumも、相互運用性を重視した仕様策定を進めており、エコシステム全体での成熟が進行中です。
日本市場特有の動きとして注目されるのが、小型・カード型への需要です。財布に収まる薄型トラッカーは人気が高い一方、UWBアンテナには一定の物理サイズが必要でした。しかし、半導体メーカー各社によるアンテナ設計の高度化により、カード型でもUWB測位を実現する研究開発が進んでいます。総務省の規制緩和で屋外利用が可能になったことも追い風となり、日常の持ち物すべてが精密に把握できる環境が現実味を帯びてきました。
スマートトラッカーの進化は、探すという行為を「勘」から「確信」へ変えました。UWBの普及が進むほど、この体験は特別なものではなくなり、ガジェットの基本機能として定着していくと考えられます。
スマートロックと住宅設備で広がるUWB活用
スマートロックと住宅設備の分野では、UWBの導入によって「鍵を持たない」体験が現実的なレベルへと進化しています。従来のBluetoothやGPSを用いた解錠は、便利である一方で誤動作や待ち時間といった課題が残っていました。UWBは数センチ単位の測位精度と方向認識を持つため、玄関前に立ったという明確な空間コンテキストを捉え、意図しない解錠を防ぎながら即座に反応できます。
特に日本の住宅事情では、この精度が大きな意味を持ちます。 集合住宅や狭小住宅では、玄関と生活空間が近く、従来方式では「近くを通っただけ」で反応してしまうケースが問題視されてきました。UWBはドアとの相対距離と方向を同時に判定できるため、ドア正面に立った場合のみ解錠するといった制御が可能になります。
国内スマートロックの代表例であるQrio Lockでは、Bluetoothベースのハンズフリー解錠において、解錠まで数秒かかる、ゴミ出し時に誤解錠するなどの声がありました。UWBを組み合わせた次世代方式では、BLEで接近を検知し、至近距離のみUWBで精密認証するハイブリッド構成が有力とされています。これはFiRa Consortiumや半導体メーカーの技術資料でも推奨されている設計思想です。
住宅設備メーカーの動きも重要です。LIXILのFamiLockのように、ドアや建材と一体化した電気錠は、後付けガジェットとは異なり安定した電源供給が可能です。ここにUWBを組み込むことで、電池寿命の制約から解放され、高頻度の測位や常時待受が現実的になります。総務省の制度整備によって屋外利用が解禁されたことも、新築住宅での本格採用を後押ししています。
| 項目 | 従来方式 | UWB活用時 |
|---|---|---|
| 解錠精度 | 数メートル誤差 | 数センチ単位 |
| 誤解錠リスク | あり | 極めて低い |
| 反応速度 | 数秒待ち | ほぼ即時 |
セキュリティ面でもUWBは評価されています。リレーアタック対策として、距離バウンディングプロトコルを用いた物理的検証が可能であり、これはCar Connectivity Consortiumのデジタルキー規格でも採用されています。同様の仕組みを住宅用スマートロックに転用することで、暗号突破以前に物理法則で不正を排除できます。
今後注目されるのは、スマートロック単体ではなく住宅全体との連携です。 Matter対応ハブとUWBリーダーが普及すれば、玄関に近づいた瞬間に解錠と同時に照明や空調が起動するといった連動が実現します。建材メーカー、スマートホーム規格団体、半導体ベンダーが連携することで、UWBは住宅設備の中核技術として静かに浸透していくと考えられます。
自動車分野で進むデジタルキーと車内センシング
自動車分野では、UWBの進化によって「鍵」と「車内の認識」が同時にデジタル化されつつあります。単なるスマートキーの置き換えにとどまらず、**車が人の位置や状態を理解する存在へ変わり始めている点**が、これまでの技術革新と決定的に異なります。
まず注目されるのが、UWBを中核に据えたデジタルキーです。Car Connectivity Consortiumが策定したDigital Key Release 3.0では、Bluetooth LEとUWBを組み合わせることで、距離と方向を数センチ精度で把握します。BMWが先行導入したDigital Key Plusでは、スマートフォンをポケットに入れたまま車に近づくだけで解錠され、エンジン始動まで完結します。これはNFC方式のように「かざす」操作が不要で、体験そのものが変わります。
この仕組みが評価される理由は利便性だけではありません。**UWBは電波の往復時間を用いた距離バウンディングにより、リレーアタックを物理的に検知できます**。FiRa ConsortiumやQorvoの技術解説でも示されている通り、信号が中継されればナノ秒単位の遅延が生じ、正規ユーザーではないと判断されます。近年増加する車両盗難への対策として、自動車メーカーがUWBを重視する背景です。
| 領域 | UWB導入前 | UWB導入後 |
|---|---|---|
| 車両解錠 | 信号強度や接触判定に依存 | 距離・方向を高精度に認識 |
| 盗難対策 | リレーアタックに弱い | 物理法則に基づく検知 |
| 車内検知 | 重量・赤外線センサー中心 | 呼吸レベルの動きまで検出 |
もう一つの重要な進化が、車内センシングです。UWBは通信だけでなくレーダーとしても機能し、車内に人が「いるか」だけでなく「生きているか」を検知できます。東海理化やミネベアミツミが発表している幼児置き去り検知システムでは、呼吸による胸部の微細な動きを捉え、毛布に覆われた状態でも検出可能とされています。Euro NCAPで評価項目となったChild Presence Detectionへの対応として、世界的に採用が進んでいます。
従来検討されてきた60GHzミリ波レーダーと比べ、UWBの強みはハードウェアの共用です。**デジタルキー用のUWBモジュールを流用できれば、通信とセンシングを一体化でき、コストと実装負荷を同時に下げられます**。この点は、軽自動車や量販モデルにも安全機能を広げる上で現実的な解となります。
自動車工業会や欧州の安全評価機関の議論を見ても、今後の車は「操作される機械」から「周囲を理解する空間」へ移行していくと読み取れます。UWBによるデジタルキーと車内センシングは、その転換点に位置する技術であり、日常の利便性と命を守る安全性を同時に底上げする基盤になりつつあります。
産業・医療・見守り分野でのUWB最新動向
産業・医療・見守り分野では、UWBはもはや「位置を知る技術」にとどまらず、人やモノの状態をリアルタイムに把握する基盤技術へと進化しています。特に日本市場では、労働力不足や高齢化、医療現場の負荷増大といった社会課題と強く結びつきながら導入が加速しています。
産業分野で注目されているのが、工場や物流倉庫におけるRTLSの高度化です。矢野経済研究所の調査でも示されている通り、従来のWi‑FiやBluetooth測位では数メートル単位だった誤差が、UWBでは数十センチ以下にまで縮小します。これにより作業員がどの棚の前でどれくらい滞留したかといった行動レベルの分析が可能となり、トヨタ生産方式に代表される改善活動をデータドリブンで支える役割を担い始めています。
| 用途 | 従来技術 | UWB導入後の変化 |
|---|---|---|
| 作業員動線分析 | エリア単位の把握 | 棚・設備単位での可視化 |
| AGV制御 | 床磁気テープ依存 | 柔軟な自律走行 |
| 安全管理 | 目視・巡回 | 危険エリア侵入を即時検知 |
医療分野では、UWBレーダーを用いた非接触バイタルモニタリングが研究段階から実装フェーズへ移行しつつあります。京都大学の臨床研究では、ベッドサイドに設置したUWBセンサーのみで呼吸数や体動を高精度に測定できることが報告されており、電極装着が難しい高齢者や小児への応用が期待されています。日本呼吸器学会関係者からも、睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング手法として有望との見解が示されています。
見守り分野において特に存在感を高めているのが、高齢者向けの転倒・異常検知です。NOVELDAなどが開発するUWB存在検知センサーは、カメラを使わずに呼吸や微細な体動を捉えるため、プライバシー配慮と検知精度を両立できます。浴室やトイレといったカメラ設置が難しい空間でも利用できる点は、日本の住宅事情と非常に相性が良いと言えます。
産業・医療・見守りの各領域に共通する最新トレンドは、UWBを単体で使うのではなく、AI解析やクラウド基盤と組み合わせて「意味のある行動」へ変換する点にあります。IEEEやMDPI Sensors誌の論文でも、UWBデータと機械学習を組み合わせることで、単なる存在検知を超えた状態推定が可能になると指摘されています。今後は、現場に溶け込みながら人を支える静かなインフラとして、UWBの価値がさらに再評価されていくでしょう。
2025年以降に加速するUWB市場とガジェットの未来
2025年以降、UWB市場は単なる技術トレンドではなく、ガジェットの価値そのものを再定義するフェーズに入ります。MarketsandMarketsやStratistics MRCの調査によれば、世界のUWB市場は2030年にかけて年平均15%以上で成長すると見込まれており、特にコンシューマー向けデバイスの比重が急速に高まる点が特徴です。
この成長を支える本質は、「高速通信」ではなく「空間理解」を前提にしたUX設計が可能になることです。UWB対応ガジェットは、ユーザーの位置や向き、距離を前提に振る舞いを変えます。これはタッチや音声に続く第三のインターフェースとして、空間そのものがUIになることを意味します。
| 領域 | 2025年以降の変化 | ユーザー体験 |
|---|---|---|
| スマートフォン | UWB標準搭載が加速 | 近づける・向けるだけで操作完結 |
| 紛失防止タグ | 小型化と高精度化 | 数十センチ単位での直感的探索 |
| スマートホーム | 認証の高度化 | 誤動作しない完全ハンズフリー |
AppleやGoogleがOSレベルでUWB APIを整備している点も、市場拡大の重要な要因です。FiRa ConsortiumやIEEE 802.15.4zに基づく標準化が進んだことで、メーカー間の相互運用性が高まり、UWBは一部のハイエンド機能から「使われて当たり前」の基盤技術へと移行しつつあります。
日本市場に目を向けると、総務省による屋外利用解禁や周波数整理を背景に、自動車、住宅設備、ウェアラブルまで連続的な採用が見込まれています。矢野経済研究所の分析でも、B2C分野が市場拡大を牽引するとの見方が示されています。
鍵を出す、アプリを開く、ボタンを押すといった行為が不要になり、ユーザーは空間の中を自然に移動するだけでよくなります。2025年以降のUWB市場は、スペック競争では測れない体験価値を軸に、ガジェットの進化を次の段階へ押し上げていくでしょう。
参考文献
- Wikipedia:Ultra-wideband
- 総務省:電波法施行規則等の一部を改正する省令(UWB 無線システム屋外利用)
- Qorvo:Getting Back to Basics with Ultra-Wideband (UWB)
- Stratistics MRC / GII:超広帯域(UWB)市場規模・予測レポート
- すまほん!!:HomePod mini、アプデで「超広帯域無線」解禁
- Tile公式:UWB対応新機能に関するプレスリリース
- 東海理化:UWB幼児置き去り検知システム
