スマートフォンやタブレットを買い替えるたびに、SIMの入れ替えや店舗手続きが面倒だと感じたことはありませんか。近年、その煩わしさを一気に解消する技術として「eSIM」が急速に注目を集めています。物理カード不要でオンライン完結という利便性は、ガジェット好きにとってまさに革命的な変化です。
特に日本市場では、iPhoneを中心にeSIM対応端末が早くから普及してきた一方で、キャリア対応やユーザー体験には大きな差が存在します。その結果、「知っている人だけが得をする」状況が生まれているのが現実です。
本記事では、eSIMがなぜ今ここまで重要視されているのか、日本の通信市場や規制の動き、iPhoneとAndroidで異なる体験、MVNOと大手キャリアの戦略の違いまでを整理します。最新ガジェットをより自由に、賢く使いこなすための視点を得られるはずです。
eSIMとは何か:物理SIMから解放される通信体験
eSIMとは、端末内部にあらかじめ組み込まれたデジタルSIMのことで、物理的なカードの抜き差しを必要としない通信方式です。これまで当たり前だったプラスチック製のSIMカードは、契約情報そのものが物理媒体に紐づいていました。そのため回線変更には郵送や店舗来店が伴い、時間的・心理的なハードルが存在していました。eSIMはこの制約を取り払い、通信契約をソフトウェアとして扱えるようにした点が本質的な進化です。
総務省のスイッチング円滑化に関する議論によれば、eSIMの普及は利用者がオンラインで即時に契約を切り替えられる環境を整え、市場競争を促進するとされています。実際、QRコードの読み取りやアクティベーション操作だけで回線を追加・変更できる体験は、ガジェットに慣れたユーザーほどその価値を実感しやすいでしょう。通信が「所有」から「選択」へ変わる感覚は、eSIMならではの特徴です。
| 項目 | 物理SIM | eSIM |
|---|---|---|
| 契約切替 | 郵送・来店が必要 | オンライン完結 |
| 端末設計 | SIMスロット必須 | 内部チップで完結 |
| 回線管理 | 差し替え作業 | プロファイル切替 |
世界市場を見ても流れは明確で、GSMAの関連資料では2024年時点でスマートフォンの約3分の1がeSIM対応になると予測されています。日本ではiPhoneの高いシェアを背景に、早い段階から対応端末が広がってきました。ハードウェア面ではすでに準備が整っており、ユーザーが意識を変えるだけで恩恵を受けられる段階に入っています。
eSIMは単なる利便性向上にとどまりません。端末内部に固定されているため紛失や破損のリスクがなく、GSMAが定める国際標準に基づいた暗号化プロファイルで管理されます。AppleやGoogleといったプラットフォーム事業者も、この仕組みを前提にUXを設計しています。物理SIMから解放されることは、通信体験そのものがデジタルネイティブ化する第一歩だと言えるでしょう。
日本でeSIMが急速に広がった背景と市場の特殊性

日本でeSIMが急速に広がった背景には、技術革新だけでなく、日本特有の市場構造と政策的な後押しが密接に関係しています。従来、日本の携帯通信市場は大手キャリアが主導し、物理SIMを前提とした契約プロセスによって利用者の移動が抑制されてきました。しかし2020年代に入り、**物理的制約を伴わないeSIMが「乗り換えの壁」を一気に下げたこと**が、大きな転換点となりました。
特に注目すべきは、ハードウェア面での準備が世界的に見ても早期に整っていた点です。総務省や業界関係者の分析によれば、日本では2020年上期の時点でスマートフォン出荷台数の約4割強がeSIM対応と推計されています。これはiPhoneの高い市場シェアが大きく影響しており、Appleが比較的早い段階からeSIMを標準機能として組み込んできたことが、日本市場全体の土台を先行して形成しました。
一方で、サービス側の対応は段階的でした。総務省が設置したスイッチング円滑化タスクフォースでは、eSIMとオンライン本人確認を組み合わせることで、MNPを即時化し競争を促進する方針が示されています。**この政策的メッセージが、事業者にeSIM対応を迫る強力なシグナルとして機能しました**。通信分野の競争政策に詳しい有識者も、eSIMは料金競争以上に「選択行動そのもの」を変えると指摘しています。
| 視点 | 日本市場の特徴 | 影響 |
|---|---|---|
| 端末構成 | iPhone比率が高くeSIM対応が早期に普及 | 利用可能ユーザー層が一気に拡大 |
| 制度設計 | 総務省主導で乗り換え円滑化を推進 | 事業者の対応スピードが加速 |
| 利用文化 | オンライン完結型手続きへの慎重姿勢 | サポート体制が普及の鍵に |
日本市場の特殊性として、ユーザーのITリテラシー分布も無視できません。大手キャリアが指摘するように、eSIMは設定やトラブル対応に一定の理解を要します。そのため、**リテラシーの高いガジェット志向層から先に浸透し、一般層へは徐々に広がる二段階構造**が生まれました。この点は、サポートを重視する日本的な消費行動を反映していると言えるでしょう。
さらに、MVNOとの関係も日本独自の様相を見せています。eSIM発行に必要な設備や権限がMNO側に集中しているため、MVNOでは提供が遅れがちでした。この非対称性が、選択肢の多さという日本市場の強みと、実際の使いやすさとの間にギャップを生んでいます。**ハードは先行、サービスは慎重に追随する**という構図こそが、日本でeSIMが急速かつ独特の形で広がった本質だと言えます。
総務省が進めるスイッチング円滑化と競争政策の狙い
総務省が進めるスイッチング円滑化の根底には、**通信契約を「事業者都合」から「利用者主導」へと転換する明確な政策意図**があります。従来、日本の携帯電話市場では、SIMカードの郵送や店頭手続き、解約・乗り換え時の煩雑なフローが事実上の参入障壁となり、利用者の移動を抑制してきました。
総務省が設置した「スイッチング円滑化タスクフォース」では、eSIMやオンライン本人確認の活用によって、こうした障壁を制度的に引き下げることが議論されています。総務省の報告書によれば、契約変更が即時・オンラインで完結する環境は、利用者の選択肢を広げるだけでなく、事業者間の競争を継続的に促す効果があると整理されています。
この政策の特徴は、単なる利便性向上ではなく、**競争政策として通信市場の構造そのものに介入している点**にあります。特定のキャリアに長期間とどまることが前提だった市場から、条件次第で自由に移動できる市場へと設計を変えようとしているのです。
| 観点 | 従来の構造 | スイッチング円滑化後 |
|---|---|---|
| 契約変更 | 店頭・郵送が中心 | オンライン即時化 |
| SIMの役割 | 物理カードに固定 | eSIMで柔軟に切替 |
| 競争の軸 | 囲い込み重視 | 条件・体験で勝負 |
総務省が特に重視しているのは、MNOだけでなくMVNOも含めた公正競争です。報告書では、eSIM機能や関連設備が一部事業者に偏在している点が課題として挙げられ、**機能開放を通じた競争条件の是正**が必要だと指摘されています。これは価格競争だけでなく、UXやサービス設計での競争を促す狙いがあります。
一方で、総務省は利用者保護も同時に意識しています。eSIMは利便性が高い反面、一定のICTリテラシーや安定した通信環境を前提とするため、タスクフォースでは段階的な導入と周知の重要性が繰り返し議論されました。**自由度の拡大と安全性の担保を両立させること**が政策上の大きなテーマです。
このように、スイッチング円滑化は単なる技術対応ではなく、市場の力学を再設計する試みです。利用者が「乗り換えられる」という事実そのものが競争圧力となり、結果的に料金、品質、サポートの全てが磨かれていく。その好循環を生み出すことこそが、総務省の競争政策の核心だと言えます。
GSMA標準から読み解くeSIM技術の仕組み

eSIMは単なる「SIMカードのデジタル版」ではなく、GSMAが定めた国際標準に基づいて厳密に設計された通信技術です。GSMAは世界中の通信事業者が加盟する業界団体であり、その標準規格はAppleやGoogle、主要MNOが共通で採用しています。つまり、eSIMの仕組みを理解することは、グローバルで通用する接続性の設計思想を理解することに直結します。
現在、スマートフォンで主流となっているのはコンシューマー向け規格であるSGP.22です。この規格では、端末内部に組み込まれたeUICCと、通信事業者側のSM-DP+サーバーが暗号化通信を行い、契約情報を「プロファイル」として安全に転送します。**QRコードを読み取るだけで回線が有効化される体験の裏側では、公開鍵暗号と証明書ベースの認証が自動的に実行**されています。
GSMAによれば、このユーザー主導型の設計は、第三者による不正なプロファイル書き換えを防ぐことを最優先にした結果です。端末側のLPAが明示的な操作を要求するため、利便性とセキュリティのバランスが取られています。一方で、この設計は画面を持たないデバイスには適さず、IoT用途では別の課題を生んできました。
| 規格 | 主な用途 | 管理主体 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| SGP.22 | スマートフォン | ユーザー操作 | 高い安全性と透明性 |
| SGP.02 | 産業用M2M | 事業者側 | リモート管理だがロックインが強い |
| SGP.32 | 次世代IoT・ガジェット | eIM経由 | 柔軟性と一括管理を両立 |
産業分野で使われてきたSGP.02は、SM-SRを中心とするプッシュ型管理が可能でしたが、GSMA自身も指摘している通り、特定事業者への依存が強く、キャリア変更が困難でした。この反省を踏まえて策定されたのが最新規格SGP.32です。
SGP.32ではeIMという新しい管理レイヤーが導入され、ユーザーや管理者がスマートフォンやクラウド経由でeSIMを制御できます。**これにより、スマートウォッチやトラッカーのような小型ガジェットでも、物理SIMなしで国境を越えた接続性を実現**できます。Wireless LogicやOnomondoなどの事業者がこの規格を次世代の中核と位置付けているのも、GSMA標準が持つ中立性と拡張性への期待が大きいためです。
GSMA標準から読み解くと、eSIMは利便性のための技術ではなく、長期的なデバイス運用と公正な競争を前提に設計された「接続インフラ」であることが見えてきます。ガジェット好きにとって、この標準の違いを知ることは、将来どのデバイスが自由に使えるかを見極める重要な視点になります。
SGP.22・SGP.02・SGP.32の違いと次世代ガジェットへの影響
SGP.22・SGP.02・SGP.32の違いを理解することは、次世代ガジェットがどのような体験価値をユーザーにもたらすのかを読み解く鍵になります。これらはすべてGSMAが策定したeSIM関連規格ですが、想定している利用シーンと設計思想が大きく異なります。
まず現在のスマートフォンで主流なのがSGP.22です。これはiPhoneやAndroid端末向けのコンシューマー規格で、ユーザー自身がQRコードなどを用いてeSIMプロファイルを操作する前提で設計されています。ユーザー主導で安全性と透明性を重視したモデルである点が特徴です。
一方、産業機器やコネクテッドカーで使われてきたのがSGP.02です。こちらはサーバー側から遠隔制御するM2M向け規格で、大量デバイス管理に向いていますが、特定の事業者に強く依存する構造が問題視されてきました。GSMAやIoT事業者の分析によれば、この仕様はキャリア変更を困難にし、長期運用の柔軟性を損なう要因になっていました。
| 規格 | 主な用途 | 管理主体 | 課題・特徴 |
|---|---|---|---|
| SGP.22 | スマートフォン | ユーザー | 操作が必要だが自由度が高い |
| SGP.02 | 産業機器・車載 | 事業者 | ロックインが強い |
| SGP.32 | IoT・次世代ガジェット | ユーザー+遠隔 | 柔軟性と一括管理を両立 |
そして次世代規格として注目されているのがSGP.32です。これはSGP.22の柔軟性とSGP.02の遠隔管理性を統合した設計で、eIMと呼ばれる新しい管理要素を導入しています。GSMAやWireless Logicの解説によれば、画面を持たないデバイスでも、ユーザーがスマホ経由で回線を自在に切り替えられる点が最大の革新です。
この違いは、ガジェットの進化に直接影響します。例えばスマートウォッチやトラッカー、スマートグラスのような小型デバイスでは、物理SIMや複雑な初期設定は大きな制約でした。SGP.32では基板スペースを節約しつつ、後から通信事業者を変更できるため、製品設計とユーザー体験の両面で自由度が飛躍的に高まります。
Onomondoや各種IoTプロバイダーの分析では、2026年以降のIoTプロジェクトにおいてSGP.32対応が標準的な選択肢になるとされています。通信方式の違いは、単なる技術仕様ではなく、ガジェットの寿命や使われ方そのものを左右する要素であり、この3規格の差は次世代デバイスを選ぶ際の重要な判断材料になるでしょう。
MNOとMVNOの勢力図:シェアと満足度のギャップ
日本のモバイル通信市場を俯瞰すると、MNOとMVNOの間にはシェアと満足度が大きく乖離する独特の勢力図が浮かび上がります。MMD研究所の調査によれば、契約数ベースのシェアはMNOが約90%を占め、MVNOは1割未満にとどまっています。数字だけを見れば、大手キャリアの圧勝に見えますが、ユーザー評価という軸で見ると全く異なる景色が広がります。
同調査で測定されているNPS、いわゆる顧客推奨度では、mineoやIIJmioといったMVNOが上位に並び、MNOを上回る結果が示されています。多くの契約を抱える事業者と、強く支持される事業者が一致していない点こそが、この市場の最大の特徴です。
| 区分 | 市場シェア | 顧客満足度の傾向 |
|---|---|---|
| MNO(大手4社) | 約90% | 安定志向だが評価は平均的 |
| MVNO | 約10% | 熱量の高い支持層が存在 |
このギャップの背景には、ユーザー層の明確な違いがあります。MVNOを選ぶ層は、端末設定や通信仕様への理解が比較的高く、サポートの手厚さよりも料金の透明性や契約の自由度を重視する傾向があります。総務省の競争政策に関する議論でも、こうした利用者は「自律的に選択できる存在」と位置づけられており、過度な囲い込みを必要としない層として認識されています。
一方でMNOは、依然として幅広い年齢層とライトユーザーを抱えています。店舗網や電話サポート、家族割やセット割といった包括的な安心感が評価され、結果としてシェアを維持しています。ただし、その安心感はコスト構造にも直結しており、料金や柔軟性の面で不満を抱くユーザーが一定数存在するのも事実です。
興味深いのは、eSIMの普及がこの構図をすぐには崩していない点です。技術的には乗り換えが容易になっているにもかかわらず、MNOのシェアは大きく動いていません。これは、通信品質そのものよりも、ポイント還元や決済サービスを含む経済圏への依存が心理的なロックインとして機能しているためです。MMD研究所が示す経済圏意識のデータからも、通信契約が生活インフラの一部として組み込まれている実態が読み取れます。
結果として現在の日本市場は、量を取るMNOと、質で評価されるMVNOが共存する二層構造にあります。このギャップは市場の歪みではなく、ユーザーの成熟度に応じた自然な分化とも言えます。ガジェットやツールに関心の高い層ほど、この差を理解した上で、自身の使い方に合う立ち位置を選び始めているのが現状です。
iPhoneで進むeSIMクイック転送と圧倒的な利便性
iPhoneにおけるeSIMクイック転送は、eSIMという仕組みを「誰でも直感的に使えるもの」へと押し上げた象徴的な機能です。iOS 16以降で実装されたこの機能により、ユーザーは旧iPhoneと新iPhoneを近づけ、Bluetooth経由で認証を行うだけで、通信契約そのものを端末間で移動できます。
従来のeSIM移行では、キャリアのマイページにログインし、再発行手続きを行い、QRコードを読み込む必要がありました。iPhoneのクイック転送では、これらの工程がOSレベルで統合され、設定アプリ内の数タップで完結します。端末の初期設定フローに自然に組み込まれている点が、体験としての完成度を一段引き上げています。
Appleの公式技術解説によれば、この転送はGSMAのSGP.22規格に準拠しつつ、キャリアの認証基盤と連携して安全に実行されます。ユーザーがプロファイルの実体を意識する必要がないため、eSIMの弱点とされてきた「設定の難しさ」をほぼ解消しています。
| 比較項目 | クイック転送対応回線 | 非対応回線 |
|---|---|---|
| 移行操作 | iPhoneの設定画面のみ | Web手続きとQR読み取り |
| 所要時間 | 数分程度 | 10〜20分以上 |
| 手数料 | 原則無料 | 数百円かかる場合あり |
日本市場では、この利便性を最大限享受できるのはドコモ、au、ソフトバンク、楽天モバイルと、そのサブブランドに限られます。総務省のスイッチング円滑化に関する議論でも触れられているように、eSIMのUXはキャリア側の設備開放状況に強く依存します。その結果、iPhoneユーザーの間では「クイック転送に完全対応しているか」が回線選択の重要な判断軸になっています。
特にガジェット好きで毎年のようにiPhoneを買い替える層にとって、この差は無視できません。端末変更のたびに発生していた心理的・時間的コストがほぼゼロになることで、iPhoneのリセールや買い替えサイクル自体が加速します。これはAppleが意図的に設計したエコシステム上の優位性だといえるでしょう。
加えて、同一iPhone内で物理SIMをeSIMへ変換できる点も見逃せません。これによりSIMスロットを塞がずにDSDV運用が可能となり、海外渡航時のデータ用eSIM追加や、用途別の回線使い分けが極めて柔軟になります。バッテリー効率についても、最新世代のiPhoneでは実測ベースで大きな悪影響が見られないことが検証されています。
iPhoneのeSIMクイック転送は、単なる便利機能ではありません。通信契約を「物理から完全に切り離す」ことで、ユーザー主導のスイッチングを当たり前にしました。この圧倒的な利便性こそが、日本でeSIMが先行普及した最大の理由であり、iPhoneがガジェットユーザーに選ばれ続ける大きな要因になっています。
AndroidにおけるeSIM転送の現状と課題
AndroidにおけるeSIM転送は、2026年時点では「実用化が始まったが、誰もが恩恵を受けられる段階には至っていない」というのが率直な評価です。iPhoneがOSレベルで完成度の高いクイック転送体験を提供しているのに対し、Androidはメーカー、OS、キャリアの三層が絡む構造により、体験の一貫性に課題を抱えています。
Googleは2023年にAndroid版eSIM転送機能を公式発表し、GSMA規格に準拠した形での実装を進めてきました。ケータイ Watchの検証によれば、PixelシリーズとGalaxyシリーズの一部組み合わせでは、端末間でeSIMを直接移行できることが確認されています。**設定操作のみで本人確認を行い、QRコード不要で転送が完了する体験は、確かに大きな前進です。**
| 観点 | 現状 | ユーザーへの影響 |
|---|---|---|
| 対応端末 | Pixel・Galaxyの一部 | 他メーカーでは利用不可 |
| 対応キャリア | ドコモなど一部 | MVNOではほぼ非対応 |
| 操作方法 | 画面操作のみ | QRコード不要で簡便 |
一方で、最大の課題は「限定条件の多さ」です。この機能はすべてのAndroid端末で使えるわけではなく、対応OSバージョン、対応メーカー、対応キャリアが一致した場合にのみ成立します。総務省のスイッチング円滑化に関する議論でも、eSIMはICTリテラシーや安定した通信環境を前提とする点が指摘されており、Androidではその前提条件がさらに厳しくなっています。
特にMVNOユーザーにとっては、Android eSIM転送の恩恵はほぼありません。IIJmioやmineoなどでは、2026年時点でもAndroid間のeSIM直接転送には対応しておらず、**機種変更のたびにマイページから再発行手続きを行い、新たなプロファイルをダウンロードする必要があります。**このプロセスは数十分で完了するものの、即時性というeSIM本来の価値を十分に活かせているとは言えません。
また、Android特有の問題として、メーカー独自UIの影響も無視できません。同じAndroidでも、PixelとGalaxyでは設定画面の導線や表現が異なり、eSIM転送の開始位置すら分かりにくい場合があります。これはGoogleが中核技術を提供しつつも、最終的なUXを各メーカーに委ねている構造的な限界だと言えます。
それでも希望がないわけではありません。GSMA標準に基づく実装が進んでいる以上、**AndroidのeSIM転送は特定企業の独自機能ではなく、業界全体で成熟していく余地があります。**Google自身もPixelを通じてリファレンスモデルを提示しており、今後はXiaomiやOPPOなど他メーカーへの波及が期待されます。
現段階でAndroidユーザーが取るべき現実的な戦略は明確です。eSIM転送を重視する場合は、PixelやGalaxyと、MNOまたはそのサブブランドの組み合わせを選ぶことです。**それ以外の環境では、従来型のeSIM再発行を前提とした運用設計が不可欠です。**Androidの自由度は依然として魅力ですが、eSIM転送に関しては、まだ過渡期にあることを理解しておく必要があります。
キャリア別に注意したいeSIM乗り換えの落とし穴
eSIMへの乗り換えは誰にとっても便利に見えますが、実はキャリアの立ち位置によって注意すべき落とし穴が大きく異なります。特にMNO、サブブランド、MVNOでは、同じeSIMでも体験の質に明確な差が生まれます。
自分がどのキャリア階層に属しているかを理解せずに乗り換えると、思わぬ不便や追加コストに直面します。
| キャリア区分 | 注意点 | 典型的な落とし穴 |
|---|---|---|
| MNO | 自動化された転送機能への依存 | 契約種別変更や5G SA未有効 |
| サブブランド | 仕様変更の周知不足 | 設定再確認漏れ |
| MVNO | 手動手続きの多さ | 再発行手数料と手間 |
MNO利用者が陥りやすいのは、eSIMクイック転送に任せきりになることです。総務省のスイッチング円滑化タスクフォースの議論でも触れられている通り、手続きは簡素化されましたが、契約内容まで自動で最適化されるわけではありません。例えば5G SA対応端末へ変更しても、旧契約のままでは性能を十分に引き出せないケースがあります。
サブブランドの場合、UIは洗練されている一方で、仕様変更が静かに行われる点に注意が必要です。KDDIやソフトバンクの公式資料によれば、eSIM転送後にAPNや通信設定の再確認が必要な事例が報告されています。転送が完了した=完全復旧ではないという認識が重要です。
MVNOユーザーにとって最大の落とし穴は、自由度の裏にある手動運用です。IIJmioやmineoのように満足度の高い事業者であっても、eSIMクイック転送には未対応で、再発行には数百円の手数料とQRコードの再読み込みが必要です。MMD研究所の調査でも、こうした手間を理由にMNO系へ戻るユーザーが一定数存在すると指摘されています。
キャリア別の仕組みを理解し、自分の利用スタイルに合った階層を選ぶことが、eSIM乗り換えで失敗しない最大のポイントです。
iSIM時代の到来と通信が見えなくなる未来
eSIMが当たり前になりつつある今、その次の進化として静かに存在感を高めているのがiSIMです。iSIMはeSIMの延長線上にある技術ですが、その本質は「通信機能が部品として消える」点にあります。eSIMが基板上の専用チップであるのに対し、iSIMはSoC、つまりCPUやモデムと同じ半導体内部に統合されます。**SIMという存在を意識する必要がなくなること**が、iSIM時代の最大の特徴です。
GSMAやQualcommが示すロードマップによれば、iSIMはすでに実証段階を終え、量産フェーズへの移行期に入っています。特にQualcommは、モデムとセキュアエレメントを統合することで、基板面積を数十%削減し、消費電力も抑えられると説明しています。これはスマートフォンだけでなく、スマートグラスや指輪型デバイス、医療用ウェアラブルなど、これまで通信搭載が難しかった極小デバイスへの応用を現実的なものにします。
総務省のスイッチング円滑化に関する議論でも、将来的に「利用者が通信方式を意識しない状態」が理想像として語られています。iSIMはこの方向性と極めて相性が良く、端末の初回起動時に最適な通信事業者や料金プランが自動提示され、ユーザーは承認するだけ、というUXが想定されています。**通信は設定するものではなく、環境として存在するもの**へと変わっていきます。
| 方式 | 実装形態 | ユーザーの認知 | 主なメリット |
|---|---|---|---|
| 物理SIM | 着脱式カード | 非常に高い | 視覚的に分かりやすい |
| eSIM | 基板上チップ | 中程度 | 即時切替、スロット不要 |
| iSIM | SoC内部統合 | 極めて低い | 小型化、低消費電力、高セキュリティ |
iSIMがもたらすもう一つの変化は、通信事業者との関係性です。eSIM時代ですら、ユーザーはQRコードやマイページ操作を通じて「契約している感覚」を持っていました。しかしiSIMでは、SGP.32のような次世代規格と組み合わさることで、クラウド側から通信プロファイルが動的に制御されます。結果として、海外渡航時にローカル回線へ自動接続される、混雑時に別ネットワークへ迂回する、といったことが自然に起こります。
Wireless LogicやOnomondoといったIoT分野の専門企業は、この状態を「コネクティビティの抽象化」と表現しています。通信はスペック表から消え、バッテリー容量や重量のように、体験の裏側に隠れた要素になります。**iSIM時代の通信は、速いか遅いか以前に、存在を意識させないこと自体が価値**になるのです。
ガジェット好きにとって重要なのは、これは遠い未来の話ではないという点です。2026年以降に登場する新カテゴリーデバイスでは、SIMスロットもeSIM設定画面も存在しない可能性があります。電源を入れた瞬間につながる、その当たり前を支える技術として、iSIMは静かに、しかし確実に通信の姿を変え始めています。
参考文献
- 総務省:スイッチング円滑化タスクフォース 報告書(案)
- ケータイ Watch:総務省、MNP乗り換えの円滑化に向けた報告書案を公開
- Wireless Logic:What is SGP.32 eSIM? GSMA standard for IoT SIMs
- Onomondo:Optimizing IoT with GSMA SGP.32: eSIM IoT vs M2M vs Consumer
- MMD研究所:MMD研究所の自主調査データ一覧
- LINEMO:eSIM クイック転送の提供開始のご案内
